インサイトとの重要性~上からのビジネス、下からのビジネス~―@toriaezutorisan

2012年05月14日 21:26

前回、マーケティングは新しいタームに入ったのではないかという話をさせて頂きました。
その中で、今後はプラットフォームとそれ以外の小さく独立したプロダクトに分かれ、プラットフォームで覇権を握るのは以下の2つの仕組みになるのではないかという記述しました。


「ツールや、ユーティリティの入口を押える」
「人間の欲求を包括的に満たすことの出来る仕組み」

特に後者においては、従来のデモグラフィックで顧客をターゲティングするということがしづらくなるので、よりインサイトが必要になります。今回はそのインサイトについて、細かく説明をしたいと思います。

インサイトについては「ビジネス・インサイト」という必読の書がありますが、こちらのサイトに内容が分かりやすく要約されています。

要は“対象となる顧客に内在化し、いくつかの断片的な事実あるいは断片的な理論から、「意味ある全体像」を描き出す”ことです。リンク先では、本の中でも主題として語られるポランニーの暗黙知を用いて説明しています。

“第一に、「意味ある全体像」は、能動的に経験を形成しようとする結果として生起すること。(中略)インサイトは、それに能動的に関わらないかぎり生まれることはない。
 第二に、ポランニーは、事物(理論)を真に理解するために、その事物(理論)に内在化しないといけないと説く。理論であれば、まずその理論を使って問題を解いてみることが大事だ。ビジネス・インサイトを得るためには、インサイトを与えてくれるその対象に入り込まないといけない。”

ものすごい簡単に言うと「対象物を分析するな、対象物に内在化しろ」ということです。例を上げて説明します。

旧来のマーケティング手法を用いた場合、若年層にウケる商品開発をしたいと思ったとしましょう。最初に顧客のデモグラフィックデータを集めます。使える可処分時間はどのくらいか、使えるお金はいくらくらいか、人口の分布はどうか。そして定量データを集めた後で、顧客にインタビューを行います。今興味があるものは何か?学校では何が流行っているか?ファッションやコスメにはどのくらいお金を使うか?こうしてインタビューによって定性的なデータを集めた後に、両者をマトリックスで分析して「こういう商品が良いのではないか」と答えを導き出すのです。

ではインサイトの場合はどうするのか。対象物に内在化するので、徹底的に若年層の気持ちになるのです。若年層が興味がある物を見て、使っている物を使う。私の知り合いのマーケターの方は、若者に1日動向させてもらって普通に過ごしてもらう(その間一切質問はしない)ということをしていました。その内在化しているプロセスの中で、ふとひらめいきが生まれて、様々な事象が繋がり、新しいフレームワークが生まれる瞬間がやってくるのです。
例えば、女子高校生にインタビューをした結果、彼女たちが1週間に1度メールアドレスを変えているとしましょう。インタビューで「それはなぜか」と尋ねたら「暇だから、なんとなく」と答えます。しかし、逆にインサイトをしてメールアドレスを変える現場をつぶさに見ていたとしましょう。

そうすると、アドレスを変更するたびに友達にメール送信をして、友達からの返信時間をしきりに気にしている模様がうかがえるのです。つまり、メールアドレスを頻繁に変えていたのは、暇だからではなくて「自分と友達の関係性を図るものさし」にしていた可能性が高いのです。インタビューでは、顧客はしばしば自分でも気づかないうちに嘘をつきます。対象者に内在化しない限り、本当のことは分からないのです。

私は既存のマーケティング手法は、上から顧客を俯瞰してセグメントをする上からのビジネス。インサイトによる顧客に内在化したマーケティングは、内側から発想を広げる下からのビジネスだという風に考えます。そして最近感じるのはこの両者は、ビジネスの成長手法及びマネタイズ方法が全くことなるということです。

まず、ビジネスの成長手法です。既存の場合は顧客がデモグラフィックで区切れたので、どのくらいの顧客が市場に存在しているかが分かりました。ですから、事業の成長率や成長速度が想像しやすかったのです。しかし、インサイトの場合は個に内在化することから始まり言語化し難い暗黙知により発想を見出す手法です。その段階でこのくらい顧客いて、成長率がこのくらいでと明確に分からないので、成長速度は非線形になることが多いのです。爆発的に一気に成長するかもしれないし、逆に全く駄目かもしれない。
あるいは火がつくのは3年先かもしれないし、ずっと火がつかないかもしれないといった感じです。リーンスタートアップ(必要最低限の要求機能のみでビジネスを立ち上げ、顧客の様子を見て事業を成長させること)とかピボット(ミニマムで立ち上げたビジネスを方向転換すること)という手法は、こういう理由から生まれたのではないでしょうか。
最大の問題だと思うのは、成長速度が読めないということは、収支計画が立てられないということです。これは会社の状況を考えると致命的です。段階的に成長する従来の収支計画に沿わない事業は、日本の管理職は誰もリスクを取りたがらないと思われます。非線形に成功するかもしれないけど、失敗するかもしれない事業よりは、まあまあ売り上がる既存事業の延長を行った方が失点が少ないからです。

こういったインサイトから出発して、成功を収めている日本企業を見ても、たいてい創業者が小さくスタートしているものがほとんどです。先日来日したAmazonCEOのジェフ・ベゾスはアマゾンは「地上で最も顧客中心の会社」であり“1つの事業を構築するために5~7年にわたって投資する用意は常にある”と語っています。しかし、普通の会社でCEOでもない人間が、5年以上の投資を続けるというのは非常に難しいことのように思います。

ということで、インサイトというマーケティング手法に関して考える時、マーケティングのみならず経営までもをセットにして考えなければいけないという結構ややこしい話になってくるように思います。そして、今回もまた「インサイト思考のブラックボックス」というセンテンスを加えたかったのですが、文字量が多くなってしまったので、ご興味があればブログにてご覧ください。

インサイト

村井愛子

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