テレビ事業が不振なもう一つの理由 --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

ソニー、シャープ、パナソニックなどいわゆる家電メーカーはこの3月に巨額の赤字を計上し、今期にV字回復を目指すとしています。一方、ライバルの韓国側はLGがスマートテレビなるものを日本向けに6月から投入するほか、サムスンは有機ELで世界初となる55型のテレビを韓国向けに発売すると発表しました。

さらにアップルはまったく新しい形のアップルTVなるものを近々発売するのではないかと噂されており、引き続き世界でハードウェアとしてのテレビの開発競争は熾烈なものが続くようです。


一方、私はカナダでケーブルのデジタル放送を受信していますが、日本語放送まで含めた月々の受信料は100ドルを越えています。ではその高価なテレビ受信料に対してどのぐらいテレビを見ているかといえばこの1ヶ月トータルで多分数時間程度だったと思います。

それもたまに見るのが日本語のニュース番組だけで他のレギュラー番組はまったく見なくなりました。もちろん、英語の放送も然り。理由はそこまでして見たいと思わせる放送がないことにつきます。チャンネル数は数えたことがありませんが軽く100局はあるかと思います。それでも見たいと思わせなくなったのはテレビにしがみつかなくても良くなったということかもしれません。

いまや、テレビでもPay per Viewで好きなときに好きな映画やプレミアム番組が見られる時代。ボタンを押すだけですぐに見ることができて費用は毎月の受信料に加算される手軽さ。お金がもったいない向きの人にはユーチューブやそれに似たビデオを見られるサイトは多岐に渡ります。

今、冗談半分でケーブルテレビの契約を切ってしまおうかと考えています。ニュースならパソコンを通じてチェックできますし、映画や連ドラなどのDVDなら格安でいくらでも手に入ります。

いわゆる3Dテレビも結局ほとんどヒットせずに終わった感があります。私はテレビとはエンタテイメントが少ない時代に家族揃って楽しめる貴重なツールだったと思っています。ところが、生活習慣が変わり、家族が揃うこと自体が少なくなり、せっかく揃ったらテレビばかり見ないで違うことをするようになりました。

日本のテレビは制作費削減のため、安いお笑いタレントを多用し、クイズ番組でコストを押さえ込んでいます。テレビが生活の一部になっている層にとってはまだ、貴重なエンタテイメントだと思いますが、あと1-2世代経てばテレビが居間に鎮座する邪魔者になる可能性は否定できないのです。

テレビの製造業者は次々と新しい技術で消費者の心を揺さぶりますが、それは受信するソフトが面白いという前提だということを忘れています。放送がつまらなければテレビはただの黒い塊でしかないのです。分かりやすい例でいうならばソニーや任天堂の据え置き型ゲームからちっぽけな画面の携帯ゲームにどうして主役交代が起きたかお考えいただければ分かりやすいでしょうか?

私はこのアンバランスさに気がついたらテレビというハードを開発するよりどうやったら画面を見てもらえるかという発想に切り替えると思います。見てもらえないテレビはいくら作っても売れないし、赤字が続くのではないでしょうか?


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年5月14日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。