「ステークホルダー民主主義」の終焉

池田 信夫

今週のEconomist誌の特集は、FacebookのIPOにちなんで「公開会社の危機」。SOX法などで公開企業への規制が強まり、特にIT産業では株主の「雑音」をきらってIPOしない企業が増えた。ザッカーバーグもIPOしたくなかったが、一定数以上の株主がいる企業に財務諸表の公開を義務づける規制のために、しぶしぶIPOしたという。


以前の記事でも書いたように「独裁」型企業の業績が上がっているのは世界的傾向だが、これは政治にもいえる。野田首相はようやく原発の再稼働する方針を示したが、さっそく朝日新聞が「大飯原発―再稼働はあきらめよ」と噛みついて「超法規的コンセンサス」を求めている。

福井県知事が政府に要望していた消費地の理解はどうなったのか。19日に関西広域連合の会合が予定されているが、京都、滋賀の両知事をはじめ周辺自治体は再稼働にきわめて慎重な姿勢だ。

多くの国民は、この夏は節電努力で乗り切りたいと考えている。再稼働に反対する各種の世論調査を見ても、その意志が表れている。民意を意識して、政府として「原発ゼロの夏」への備えを整えた、ということだ。であれば賢い節電の徹底と定着に全力を注ぐのが筋である。

「消費地の理解」とは何のことか。消費者の過半数が賛成しないと原発は運転できないのか。「再稼働に反対する各種の世論調査」というのは朝日新聞の調査のことだろうが、産経の企業アンケートでは48%が再稼働賛成だ。いずれにせよ世論調査も再稼働の法的要件ではない。

かつて日本的経営を「ステークホルダー資本主義」の一種として賞賛する議論が流行したことがあるが、このように多くの「世論」が政治的決定に関与するのはステークホルダー民主主義ともいえよう。企業統治については多くの研究があるが、法的な決定権者である株主以外のステークホルダーが意思決定に関与することは交渉問題を増やして非効率な結果をまねくので、株主資本主義がもっとも効率的だ、というのがほぼ一致した結論である。

政治についても同じだ。原発の運転を許可する権限は経産相にあり、消費地はもちろん、地元自治体の同意も要件ではない。このように際限なく広いコンセンサスを求めると、何も決まらなくなる。意思決定を内閣に一元化し、すべて法律にもとづいて決める法の支配の原則を徹底する必要がある。

そのためには国会のねじれを是正することも重要だが、最大の問題は官僚機構の簡素化だ。複雑でスパゲティ状にからんだ法律をモジュール化し、法制局を廃止して法案や予算の決定権を内閣に集中し、各省折衝で法案を協議するるのもやめるなど、なるべく意思決定に関与するステークホルダーを減らす粘り強い改革が必要だろう。