そもそもなぜギリシャはユーロに加盟できたのか?

藤沢 数希

30日に公表されたギリシャの世論調査で、緊縮財政に反対する左派の政党が支持率を伸ばしていることが判明し、さらに、イタリア国債の利回りが上昇したことなどから、ユーロが売られている。この原稿を書いている時点で98円を割ってきたところで、そもそもギリシャはたびたび国債のデフォルトを起こしてきた国である。それがなぜユーロに加盟できたのであろうか? 実はそこには世界的な投資銀行であるゴールドマン・サックスの活躍があった。


ギリシャ危機の発端は、2009年10月にギリシャで政権交代が起こり、新政権(全ギリシャ社会主義運動)が旧政権(新民主主義党)が行ってきた財政赤字の隠蔽をバラしたことである。ギリシャの財政赤字は、GDP比で4%程度と発表していたが、実際は13%近くに膨らみ、債務残高も国内総生産の113%にのぼっていた。国家ぐるみで粉飾決算をしていたのである。

ユーロに加盟するには、国の債務残高をGDP比で60%以内に抑え、さらに財政赤字はGDP比で3%以内に抑える、またはそれが可能であることを示さなければいけなかった。そこでギリシャ政府が行ったことは、粉飾決算である。そしてそれを助けたのがゴールドマン・サックスである。

使われた方法は古典的なものだ。特殊なカレンシー・スワップが使われた。カレンシー・スワップというのは、ある通貨を担保にして、別の通貨を借りるためのデリバティブである。例えば、100億円を相手に預けて、1億ユーロを借りる。そして満期まで、円を貸した方は円の金利を受け取り、ユーロを借りているのでユーロの金利を支払う。満期に、100億円が返ってきて、1億ユーロを相手に返す。交換レートは直近のスポットを使うので、最初にトレードした時点での損益は何もないが、金利の変動などで損益が発生する。カレンシー・スワップ自体は非常に一般的なデリバティブである。

しかしゴールドマン・サックスが行ったカレンシー・スワップは、最初に設定する為替レートを、直近のスポットからかなり離れたものにする。つまり、100億円の担保に対して、例えば2億ユーロを貸したりする。そこで満期までの金利で、この最初のズレをギリシャに支払わせるのだが、欧州連合の財務データのルールでは、最初に余分に入ってきた金額をそのまま現金として扱い、デリバティブによる将来のキャッシュ・アウトは債務残高に含めなくても良かったのである。こうしてギリシャは、債務の「飛ばし」をやったわけである。オリンパスなど、企業が「飛ばし」をするのは、よくある話ではあるが、国が飛ばしをやるのは、なかなか壮大な話である。

ゴールドマン・サックスは結局、想定元本で1兆円ほどの取り引きをして、少なくとも数百億円の利益を上げたと言われている。その後に、ギリシャ危機では、ギリシャ国債のCDSの自己勘定取引でも一儲けしたと言われており、なかなか抜け目ないのであるが、今になって思うと、ちょっと調子に乗りすぎたところはあるかもしれない。

このディールでは、最初にギリシャが余分に現金を受け取り、あとでたっぷりとマージンを乗せてゴールドマン・サックスに返すという取り引きであるが、公的資金が注入されたり、金融システムの崩壊を何が何でも回避しようと世界中の政府が頑張ってくれたおかげで、ゴールドマン・サックスなど世界の投資銀行の利益も守られたのである。

“Too big to fail”な金融機関のビジネス・モデルが、今後どう変わるのか、あるいは変わらないのか、筆者の興味は尽きないが、多くの人々が腑に落ちない気持ちでいるのは確かであろう。シェークスピアのヴェニスの商人を読めば、金融業者が嫌われているのは今に始まったことではないと分かるが、今やゴールドマン・サックスなどの金融機関がかつてないほど世界の人々の嫌悪の対象になっているのは、やはりそれ相応の理由があるのかもしれない。

参考資料
Revealed: Goldman Sachs’ mega-deal for Greece, Nick Dunbar, Risk magazine, 01 Jul 2003