山田奨治氏の違法ダウンロード刑罰化に民自公が突き進むことに、なぜ違和感があるのかは、違和感の具体例を4つあげている。3番目の「どうみても、ネット住民の意見を、多くの議員は軽く考えていること」に関連して、ピンチはチャンスではないか? 米国に学ぶ違法ダウンロード刑事罰導入阻止策のとおり、今年1月、米国のネットユーザは、ハリウッドが昨年ロビー活動に9400万ドル(75億円)つぎこんだ法案を葬り去った。今週にも予定されている衆院本会議での採決を前に、ネットユーザが議員に反対の意思を伝える際の参考に供するため、その模様を敷衍する。
今年1月18日にWikipediaの英語版の画面が真っ黒になり、丸1日サービスが停止(ブラックアウト)された。サイトには米下院に提案されたオンライン海賊行為防止法案(SOPA)、上院に提案された知的財産保護法案(PIPA)に反対する声明が表示された。Google, eBay な などネット大手も加わって、ネット上での抗議を呼びかけた。SOPA、PIPAとも、著作権侵害行為を行っている米国外のサイトへのアクセスや送金を停止する権限を、司法省に付与する法案である。
「図解インターネットが止まった日」というブログ記事は、ブラックアウトに端を発したネットユーザの抗議が議員を動かした状況を数字で紹介している。
1月18日(水):ブラックアウトの日、議会に総数40万件の電話、議員一人あたりにすると919件の電話があった。1件あたりの通話時間が45秒と仮定すると、議員一人あたり11時間半の電話を受けたことになる(筆者注:もちろん議員が直接受けるわけではないが、議員の事務所が対応に追われたわけである)。
1月19日(木):3名のPIPAを共同提案した議員を含む14名の上院議員が法案に反対する声明文を発表。上院の定数は100名なので、14%の議員が反対に回ったことになる。
1月21日(土):SOPAを提案したラマ-・スミス下院議員(共和党)法案の棚上げを決定。ハリー・レイド上院議員も24日に予定していたPIPAの採決延期を決定。
1月22日付トロントスター紙によれば、ブラックアウトの前には80名の議員が賛成、31名が反対だったのが、2日後の1月20日には、賛成63、反対122に逆転した(米議会は上院100名、下院435名の議員で構成されるため、残りの議員は態度を保留していたと思われる)。また、上院は司法委員会が2011年春には全会一致でPIPA賛成を決めていて、本会議での採決を待つばかりだった。一夜にして形勢をひっくり返したのが、ネットユーザの議員への抗議だった。
宮本たけし議員(共産党)のブログ によると、衆議院は「8日の理事会では自民党から、『質疑終局後に修正案の提案、採決』という審議日程が提案され、私の反対を押し切って、民自公で決めてしまいました」。同議員は、「審議日程すら決まってもいないのに、『刑事罰化を導入する修正案に対する質疑だけはさせない』ということを、先にさっさと決めてしまうなどというのは言語道断です」と激怒している。
内容的にも
「拙速すぎる「違法ダウンロード刑罰化」基本的人権に配慮して十分議論すべき」
で指摘したように表現の自由、プライバシー、通信の秘密、情報へのアクセス権など基本的人権にかかわる修正である。宮本議員の指摘のとおり、審議もせずに通そうとするのはあまりにも乱暴である。
SOPAを提案したラマ-・スミス下院議員は、1987年から13期連続当選のベテラン議員で 司法委員長も務めている。選挙民の抗議を受けて、ブラックアウトの3日後には法案の棚上げを決定したにもかかわらず、今秋の下院議員選挙へ向けた共和党の指名候補争いで、2人の対立候補が現れ、一時は共和党の指名争いに敗れる懸念すら浮上した。
プロバイダーを規制するSOPAやPIPAと異なり、わが国の違法ダウンロード刑罰化は直接、ユーザをターゲットにしている。このため、ネット企業からの反対運動は起きていない。こうした中で、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)が先週、「違法ダウンロード刑事罰化」について、議員向けの 反対声明 を発表するなど、孤軍奮闘している 明日6月13日(水)夕方には議員会館で、「ウェブサービスとその利便性について考える勉強会」 を開催する予定である。ネット中継も予定しているようなので、視聴した上で、選挙区の国会議員にネットユーザの意向を軽視しないよう訴えよう。
城所岩生