不祥事企業の自浄能力は役員をも救う!(D&O保険の最新事情) --- 山口 利昭

アゴラ編集部

先週金曜日、ある研究会にてD&O保険(会社役員賠償責任保険)の最新事情を某外資系保険会社の方からお聴きしましたところ、ちょうど本日の朝日新聞ニュースでもとりあげられておりました(朝日新聞ニュースはこちら)。会社役員の法的な賠償責任について、保険が適用される場面が少し広くなりそうであります。


オリンパス、大王製紙等、昨今の企業不祥事を受けて、たとえばAIU社の保険制度では、会社が役員に対して損害賠償請求訴訟を提起し、役員に法律上の損害賠償義務が認められた場合でも、当該役員の賠償金を保険から負担するようになるそうです(2012年7月1日より運用開始)。たとえばオリンパス社のケースを例にとりますと(あくまでもモデルケースとして、という意味です)、責任調査委員会が「善管注意義務違反あり」として認定した十数名のうち、実際に違法行為に関与していたとされる数名の方々の分は対象とはならないが、他の役員の方々の分(たとえば取締役の監視義務違反や監査役の任務懈怠による法的責任)については対象になる、とのこと。自社できちんと第三者委員会を設置して、その公正な調査のもとで役員の責任判断が下され、その報告結果に基づいて会社が損害賠償責任追及訴訟を提起する、という例は今後も増えてくるものと思われます。そういった企業の自浄能力を発揮した対応をも保険でカバーする、というのは、コンプライアンス経営という視点からは画期的なものであります。

通常、D&O保険は会社役員賠償責任普通保険約款と会社補償担保特約条項の、いわゆる二層建によって構成されております。基本約款部分では株主代表訴訟による役員の賠償義務には保険が下りないことになっており、これを特約で一定の条件のもとで解除している(つまり代表訴訟で敗訴した役員にも保険金が下りる)ことになっております。しかし、今回問題となっているのは、普通保険約款6条9号、7条1号の条文です。そもそも、会社が役員に対して損害賠償責任を追及するケースは、保険の対象外になっています。この原則の例外として、一定の条件のもとで(上記紹介したとおり)会社提訴にかかる役員の職務に関する任務懈怠事案に適用されるものだと理解されます。したがいまして、会社自身が役員を訴えるといっても、どういった条件のもとで提訴した場合に保険の対象となるのか、このあたりは保険会社の方に十分説明を求める必要がありそうです。

たとえば上ではオリンパス事例をモデルにしましたが、では佐藤食品工業さんの事例のような場合はどうなるのでしょうか(これもモデルケースとして例示したものにすぎませんのであしからず……)。つまり、株主から提訴請求を受けた監査役が、提訴が妥当と判断して、会社自ら役員に対して責任追及訴訟を提起するケースであります。このケースも基本約款および株主代表訴訟特約条項からすると適用されないことになりそうです。たとえば日弁連ガイドラインに基づいて、公正な第三者による責任判断がなされたからこそ、保険の対象になると考えるのであれば適用外と考えられます。もっと広く会社判断による役員責任追及の場面もカバーする、ということであれば対象になるようにも思えますが、どうなんでしょうか。皆様の会社が契約を締結されていらっしゃる保険会社の方々に、一度説明を求めてみてはいかがでしょうか。

ところで、このD&O保険の普通保険約款や特約条項等は、法律家でなければ、かなり読みにくいものと思われます。そこで、意外と知られていないかもしれませんが、「身内」どうしの争いには適用されないことになっています(普通保険約款6条9号参照)。つまり社外監査役や社外取締役等が現経営陣と対立して、現経営陣の責任を追及した場合、かりに現経営陣が損害賠償責任を負担した場合には保険金は支払われない、ということであります。社外役員が、自分たちの責任まで問われるような場面であれば、まさか現経営陣を率先して訴えることはないかもしれません。しかし、経営判断において意見が対立し、現経営陣が会社に損害を与えたようなケースであれば、社外役員が一株でも株式を保有している場合、社内の取締役には、かなりリスキーな場面も出てくるかもしれません。

現在上場会社の(少なくとも)8割において、なんらかのD&O保険に加入しているそうですが、今後、社外役員の導入が真剣に検討される時代となった場合、この身内に訴えられるリスク、というものもD&O保険との関係でも検討される必要があるように思いました。また社外役員に就任される方にとっても、どういった賠償保険の内容になっているのか、就任時の条件としては重要なものなので理解をしておく必要がありそうです。


編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年6月27日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。