日本では脱原発デモが盛んだが、アメリカではウォール街を占拠するデモが続いていた。彼らの標的とするのが「官民癒着」であるのも似ているが、著者はこういう反市場ポピュリズムは問題を解決しないという。
国会事故調の報告書はregulatory captureが「メイド・イン・ジャパン」だと書いているが、本書を読めばわかるように、規制当局と業者のムラ的な構造は世界共通だ。その本場は著者の母国イタリアだが、これに対して左翼ポピュリストが「差別反対」などと称して反対運動を行なった。このためイタリアの大学入試は学力試験がほとんどなくなったが、その代わりコネ入学になった。絶望した著者は、母国を去ってアメリカに留学する。
そこで彼の見たのは、人間関係や金の力ではなく実力でトップになれる国だった。著者はMITで博士号を取り、資本主義の総本山であるシカゴ大学でテニュアを取り、『資本家から資本主義を守る』という本も書くが、1990年代以降、アメリカの資本主義は変質し、「イタリア化」したという。
特に大きなショックは、2008年の金融危機だった。それは政府に近い金融産業の存亡の危機であり、彼らは全力で政府にロビイングを行なった。数千億ドルの税金が金融機関に投じられ、法治国家のルールは踏みにじられた。ロビイストや弁護士によるrent-seekingの利益はきわめて大きいので、巨額の報酬も採算に合う。その結果、アメリカでもっとも豊かな10州のうち、7州がワシントンDCに隣り合う。
これに対して、インターネットの発達でポピュリズムが全世界的に燃え上がった。アフリカではポピュリストが政権を倒したが、アメリカのような先進国では、ウォール街デモのような反市場ポピュリズムは有効な対案がないため、政治的インパクトをもちえない。必要なのは、政府に資本主義のルールを守らせ、税の抜け穴をふさいで無原則な企業救済を許さない市場志向の倫理だという。
日本でもバラマキ福祉の民主党に対して、自民党が「200兆円のバラマキ公共投資」を掲げ、与野党ともに資本主義を無視している。これに対して、「たかが電気」などと勘違いしている反市場ポピュリズムも相手にされない。それより「東電を法的に破綻処理しろ」という対案を出せば、政府も真剣に対応するだろう。これから本当に世界を変える大衆運動が起こるとすれば、そのバイブルは『資本主義と自由』かもしれない。