行こうよ、マル研。 --- 中村 伊知哉

2012年08月30日 09:53

大阪、キタ。学生のころ毎日のように通った阪急かっぱ横丁と古書のまちを久しぶりに訪れました。変わりまへんな、ここは。でも、大阪駅がガラッと変わっていました。おびただしい数のサイネージに伊勢丹。川崎ゆきおが描いた昔の大阪はクサかったのに、近代的にならはって。ええもん残しながら発展しとくんなはれ。
「マルチスクリーン型放送研究会」、通称マル研。在阪のテレビ局が中心となったコンソーシアムで、スマートテレビの実証実験を試みています。日本型の放送・通信融合モデルを作る。ラジオのIPサイマル放送「radiko」が大阪発でスタートし、全国に発展して行ったのと似た取組です。大阪から全国を変えるのは、橋下さんより放送局のほうが先や! (さっきゃ!、と読む。)ぼくはradikoの顧問を務めていましたが、マル研も顧問です。その総会がキタで開かれたのです。


スマートテレビへの期待が高まっています。ぼくが関わったものだけでも、春のNHK放送記念日番組はスマートテレビ特集でしたし、民放連ネットビジネス研究会もそこに焦点を当てて1年以上議論してきました。今年の情報通信白書でも情勢分析をしています。
でも未だ概念はハッキリしません。マルチスクリーン+クラウドネットワーク+ソーシャルサービスの交差点でテレビが叫ぶ解であるはずなのですが、それにしてはプレイヤーが多彩で、いろんな声が出ています。GoogleやAppleが言うスマートも、NHKハイブリッドキャストのスマートも、「もっとTV」や「nottv」のスマートもみなまるで違います。
いやその前に、日本型のスマートっぽいテレビもありました。ウェザーニュースは、BSもブロードバンドもモバイル通信網も使ってTVやPCやケータイに番組を伝送し、さらに全国のユーザからケータイでお天気情報をアップさせるソーシャルでマルチスクリーンなモデルを作り上げています。ニコ動はブロードバンドで日本型オーバーレイ歌ってみた踊ってみた文化を築きました。
チャンスだと思うのです。ブロードバンドや緻密な地デジの整備、映像産業力のテレビ局への集中といったメディア産業構造に加え、いやそれ以上に、ユーザのソーシャル力がハンパない環境がです。ツイッターのCEOが来日し、「バルスすげー」と吐露したスマートテレビ利用潜在力をかみしめたい。ウェザーニュースもニコ生も、だから初音ミクも、その力が生んだのです。

で、マル研。今ぼくはこれに最も期待を寄せています。在阪の5局が束になって、具体像を作ろうとしてるんですよ。在阪5局って、あんがい仲良し。技術が仲立ちすると。今回のデモは、高校野球。番組中継は大画面のテレビのままで、手元のタブレットでは選手のデータや視聴者のメッセージが表示されています。テレビ画面は通常の地デジ。タブレットにはIPDCです。
アメリカ、特にGoogleやAppleはテレビの画面にネットが侵入するオーバーレイ型を志向しています。放送とネットのコンテンツが混在するというか、放送vsネットの構図。マル研はテレビ局主導なので、テレビ画面は汚さない。ダブル、トリプルのタブレットやスマホに新領土を築きましょうやというアプローチ。欧州もこのモデルを目指すんじゃないでしょうか。

ちょい形は見えたものの、課題は噴出。総会でも議論百出です。
まずは技術。テレビの動画とタブレットの情報を同期させる技術がポイント。これはNHKハイブリッドキャストでもコアだと聞きます。IPDCの規格作りに関わるテーマです。Wifi環境や端末の普及などビジネス基盤をどう構築するかも重要。マルチスクリーン上のコンテンツの権利処理も大変な問題です。
さらに難しいのは、コンテンツ制作。マルチスクリーンを前提とした番組作りの手法です。これは世界的にも放送人の重要テーマになるでしょう。番組はこれまでどおりで、タブレットのほうだけ追加的に考えるという具合には行かない。SNSを使いたくなる番組ってどんなの?となるわけです。第一、そのマルチスクリーン・コンテンツを誰が作るのか。タブレット上のCMって本放送のCMと違ってていいの?スマホからecサイトに飛べるとしたらその番組責任はどうする?議論は拡散しっぱなし。
そして、大前提となるのが、コストと収入のビジネス構造。マルチスクリーンは事業として成り立つのか。

ただ、ぼく的には、問題は1つに集約されます。「行くのか、行かんのか」です。
百の「むつかしい」があります。十の「行けそう」があります。では、一の「行こう」があるか。ここです。
メディア融合論議の20年、「むつかしい」の声に停滞してきました。スマテレは、「むつかしい」念仏を唱えている余裕がありません。課題は、ある。わかった。でも、解決策もありそうです。それを見極めています。
「むつかしい」から「行けそう」は、ゼロを一にする厳しい作業ですが、どうやらそこまでは来ています。ここは「行けそう」を「行こう」に転化する場面です。行きましょう。マル研は、その声を内側から絞り出そうとしています。

なんか総括せい、というので、こう言いました。
「ダイナミックな変化の場面が近づいている。6局あったとして、A社は東芝やNTTと提携、B社にはGoogleが出資、C社はAppleと同盟を結び、D社はmixiが買収、E社とF社は合併。それぐらいあっておかしくない。」
あれっ。
コラおまえナメたこと言うてんなよ。
となるべき場面だが、静かだ。
しかられない。
少し前なら確実に叱られたところなんだが、業界が変わってきたということだろうか?、いやいや、これは、ちょいと元気が足りないということなんじゃないの~?
ちょっとちょっとナニワのおじさんたち、叱って下さいよ、で、その勢いで、「行こう」。飲みに。かっぱ横丁でええから。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2012年8月30日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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