きのうのTVタックルへの反応を見ていると、予想どおり「震災の中では原発事故はマイナーな災害だ」という私の発言に反発が多かった。これは収録前の記事でも書いたように意図的に言ったことだ。感情的に反発している人は、冷静に考えたほうがいい。18000人以上が死んだ地震・津波と、死者ゼロの原発事故のどっちがメジャーな災害なのか。
災害対策を考える場合、大事なのは、特定の被害を減らすことではなく全体最適を考えることだ。今回と同じ震災が起こると想定すると、もっとも重要なのは津波による死者を減らすことだ。そのためには地震が発生した場合の避難を迅速に行なうことがもっとも低コストの対策だが、それだけでは不十分だ。
被害をゼロにする手段は、20mの堤防を全国の海岸に築くか、海岸に住んでいる住民が海岸線20km以内からすべて退避するしかない。もちろんそんなことをしたら経済活動は大打撃を受けるが、「金より命が大事」なら、どんなコストを払っても命を救うべきだ。反原発派は、なぜ「全国の港を封鎖して海岸から退避しろ」といわないのだろうか。
こう考えればわかるように、まず考えるべきなのは金と命のトレードオフの中で社会的コストを最適化することである。災害のリスクをゼロにすることも何もしないことも最適ではないから、被害者を何人へらすか、いいかえれば何人死ぬことを許容するかがリスク管理の出発点である。これについては、国民的な議論が必要だろう。自民党の出した「国土強靱化法案」のように200兆円の国債を発行して莫大な公共事業を行なうというのも一つの選択肢だが、財政が破綻するリスクが大きい。
最悪なのは、浜岡原発で工事している防波壁のような部分最適である。原発のまわりだけ18mの壁を築いても、それ以外の海岸線は無防備だ。原発の建屋には三重の防水工事がされているのだから、坊波壁は必要ない。1400億円も使うなら、原発よりも市街地を守るために予算を使うべきだが、原発を動かすためには壁を築くしかない。しかし壁が完成しても動かせる保証はない。政府は稼働の基準を何も示していないからだ。
この壁は現地では「バカの壁」と呼ばれているそうだ。屋上屋を架すだけで、事故のリスクを減らす役には立たないからだ。おまけに原発を止めてLNGを緊急輸入したおかげで、中部電力は昨年度だけで3700億円の損失を出した。この機会費用を含めると、原発停止のコストは今までに5000億円を超える。それだけの予算を防災対策にかけていれば、多くの人の命が救えただろう。政府のバカの壁も厚い。