アメリカの金融緩和をどう読むか --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

今日発表されたアメリカの金融緩和について私は正直驚きました。ここまでの大盤振る舞いはない、と見ていたからです。

ご承知の通り、アメリカ経済の回復の遅延、特に雇用情勢が今ひとつ芳しくないという中で8月の雇用統計はネット96千人増に留まり、13~15万人増が金融緩和判断の一つのラインと見られていたため、昨日、本日と二日間にわたるFOMCで何らかの対策が打ち出されるだろうと市場は読み込んでいました。


この状況に対して事前予想では二つの対策、一つは現在2014年までコミットしている超低金利政策を更に延ばす発表をするかどうか、もう一つはいわゆるQE3と称する金融緩和を新たに発表するかどうか、ということでした。

私は市場の期待に応えるため超低金利政策の延長はありえると見ていましたが本年度末に控える財政の崖の対策の為にQE3は温存すると見ていました。結果としてはFRBは超低金利政策は2015年半ばまで延長、更に住宅ローン担保証券を月に400億ドル(3兆1000億円程度)買い続けるというQE3を発表しました。

今回の思い切ったFOMCの決定について見方を変えればここまで金融政策をアピールする必要があるほど雇用などが痛んでいると見るべきなのでしょう。事実、8月は失業率こそ0.2%ポイントほど下落していましたが、労働参加率は近年まれに見る水準まで下がってきており、雇用情勢をきちんと表現していないと見られています。

一方でFRBは金融対策にて雇用への刺激はある程度可能であると見ているようです。

結論的には私としてはちょっとやりすぎの懸念が消えません。これを受けて米ドル安は顕著になり始め、例えば対カナダドルでは木曜日終値で0.9684という水準まで落ち込んできており(米ドル安カナダドル高)、当然、他通貨でも同じことが今後生じていくことになるでしょう。

また、FRBの国債資産が中国や日本が持っている金額よりもはるかに多くなっている上にFRBの資産そのものが増えすぎていることは懸念材料であるし、FRBが将来その資産を軽量化することが出来るのか、という疑問も出てくるでしょう。

FRBの抱える危険とはアメリカ政府が一株も持たない一種の「民間組織」であり、そこが紙幣を刷り、国債や証券を買うという行為であり、本質的にどうなのかというのは一考に価すると思います。また、再三繰り返すようですが、年末の財政の崖に対して更なる奥の手が残されているのか、ここは大いに注目すべき点かと思います。

概括すれば、アメリカがカンフル剤を使いすぎて常習者となりすぎているきらいが強まったということでしょう。今日の金融緩和で本当にメリットのあるのは一部の投資家に限定されないか心配です。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年9月14日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。