朝日新聞の伝える所では、「円高の動き、看過できない」安住財務相が牽制との事である。
安住淳財務相は14日の閣議後の記者会見で、足元の円高について、「最近の一方的な円高の動きが日本経済の動きを反映していないのは明らか」としたうえで、「こうした動きは看過できないので、行き過ぎた円高には、あらゆる措置を排除せず、必要な時には断固行動する」と述べた。
既視感を感じるを通り越して、昨年財務大臣に就任以来、同じフレーズを繰り返している、もっと露骨に言えば、もう聞き飽きたと言うのが実感である。
為替介入の可能性を示唆したいのであろうが、財務省に依る過去の為替介入の歴史は、先ず不用意に介入するも効果を得るに至らず。
次いで、介入に依り得たドルの運用としてアメリカ国債を購入。円高、ドル安に依り膨大な為替差損を膨らます。この繰り返しではないのか?
そもそも、安住財務大臣は一体何が円高に誘引しているのか、考えた事があるのだろうか?
私は、極単純に今後の「経済成長予測」、「財政出動」と「金融緩和」の有無と割り切っている。
それでは、先ず第一に「経済成長予測」である。IMFのWorld Economic Outlook Databasesに依れば、昨年の経済成長率は日本が-0.75%、一方、アメリカは1.74%である。一方、今年度予測は、日本が2.0%、一方、アメリカは2.4%となっている。
詰まりは、前年比は、日本が+2.75%。それに対しアメリカが+0.66%と言う事になる。
次いで財政の出動であるが、日本は当然の事ながら東北の震災復興を目指し補正予算が切れ目なく執行されている。一方、アメリカの喫緊課題は債務削減であり、財政の出動は当面有り得ない。
最後の金融緩和に就いては更に日米のコントラストは鮮やかである。日銀は飽く迄保守的であり、安易な金融緩和に動く気配はない。一方、FRBは先週QE3を決定した。
こう言った、通貨の上げ下げを支配する要因を精査した結果、円高は必然であり小手先の為替介入等した所で、短期的には投機筋に小遣いをくれてやるやるだけの話と言うのが結論である。
更に、中・長期的にはアメリカ国債でドルを運用した結果、為替差損を膨らますだけと言うのが私の考えである。
今一つ看過出来ないのは、国民に負担を強いる事になる消費増税のそもそもの目的が、これ以上の国債発行残高の膨張を防ぐ事にあった筈であり、一方、為替介入の原資は短期国債の発行で賄う事になり、国債発行残高の無規律な増加に歯止めをかけるという大前提に抵触する事である。
次期政権に於いては、矢張り財務省の如き主要官庁の大臣には業務を理解し、役所を統治出来る人材を任命すべきと思う。
政治に人材がいないと言う事であれば、現状の如く大臣が妄言を垂れ流す愚を回避すべく、政治任用で次官を大臣に抜擢してはどうだろうか?多少の問題があるにしても現状よりは遥かにましな気がする。
民主党政権の三年が教えてくれた教訓は、日本では「政治主導」は不可能であり、役所の実務を経験せず役所のトップに降り立った「大臣」は所詮役所に取っては期間限定の「お客さん」に過ぎないと言う冷徹な事実である。
山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役