先日のTVタックルで、反原発派が私の「原発の燃料費は安いが建設費は高い」という話を理解できないことにあきれたが、世の中にはこの区別がつかない人も多いらしいので、あほらしいが解説しておこう(経済学を理解している人は読む必要がない)。
コスト構造を理解していない典型が、高橋洋一氏のコラムだ。彼は明らかにエネルギー問題については素人だが、大阪維新の会のイデオローグとして「橋下徹氏のいうことはすべて正しい」という結論は決まっているので、「原発ゼロが経済的だ」ということにしなければならない。そこで彼は、原発の新規建設コストを比較して「コスト検証委員会の数字に8・6~11・6円を上乗せして、原発の真の発電コストは17・5~20・5円となる。石油火力や太陽光を除くと、ほとんどの発電方式よりコストが高くなる」という。
彼は、これまでのコスト検証委員会の議論もちゃんと読んでいないのだろう。日本でこれから原発を建設する電力会社はないので、新規建設のコストを比較しても意味がない。彼のいうバックエンド、技術開発、送電、賠償などの固定費は、運転してもしなくてもかかる。大島堅一氏も同じような勘違いをして過去の立地経費(サンクコスト)を将来のコスト計算に入れているので、これはエネルギーの専門知識というより経済学のセンスの有無の問題だろう。
問題は既存の原発を運転することによって生じる変動費である。コスト検証委員会の参考資料を読めばわかるように、原発の燃料費は直接処分の場合で1円/kWhである。これに運転維持費3.1円を加えると、変動費は4円/kWh程度だ。これに対してコスト的には優等生のLNG火力でも(設備利用率80%としても)変動費は9.3円/kWh、石油火力に至っては19.2円/kWhである。
発電コスト(円/kWh)エネルギー・環境会議 コスト等検証委員会
この図を見れば誰でもわかるように、既存の原発の運転コストは圧倒的に安い。今後の主流になるとみられるLNGに比べても半分程度だ。したがって既存の原発をなるべく長く使うことが、エネルギー価格を下げるためにはもっとも有利なのだ。
それを2030年に(償却期間を残して)無理やり廃炉にすると、莫大な損失が出て電力コストが上がる。それがエネルギー・環境会議が「GDPが8%低下する」と算出した根拠である。これはかなり控えめな予想だ。実際に日本政府がそんな愚かな政策を取ったら、競争力の高い産業から日本を脱出するだろう。日本には生産性の低いサービス業と農業と高齢者だけが残り、市場は加速度的に縮小するだろう。
原発の新規建設は当分ないので、「脱原発」などという政策は無意味である。重要なのは、法的根拠もなく停止されている原発を今すぐ再稼働することだ。変動費の小さい既存の原発はもっとも効率的なエネルギー源なので、それを止める機会費用は昨年と今年だけで5兆円を超え、日本経済の最大のダメージになっているのだ。