日中関係悪化への危機感が薄く感じる政治

大西 宏

尖閣問題は解決の兆しすら見えません。日中間に修復が不可能と思えるような亀裂を生んでしまいました。おそらく数年単位の、あるいはそれ以上のかなり長期に緊張状態が続くのでしょう。短期的にも、中長期的にも経済に甚大な影響をもたらすことは避けられそうにありません。その割りには政治に緊張感がありません。
石原都知事にとっては大嫌いな中国との関係悪化は、好ましい状態かもしれないとしても、皮肉なことに東京へのオリンピック招致が極めて困難になってしまいました。なぜなら東京開催なら中国は参加ボイコットを表明するでしょうし、中国が経済援助を続けているアフリカも反対することが予想され障害になってきます。


経済に関しては日中双方にとって依存度が高まってきていただけに、成長に急ブレーキがかかりはじめた中国経済への影響も大きいとしても、日本の経済に対する影響も大きく経済を失速させかねない危機に直面しはじめているのですが、政治はいつまでも解散時期をめぐって混乱を続けるばかりで、具体的な対策がでてきません。

おそらく多くの製造業がすでにプラス・ワンどころか、ASEANに製造拠点を移す動きは数年前からはじまっているとしても、もっとも打擊を受けるのが日本の輸出産業です。ウォールストリートジャーナルによると、大阪商工会議所が近畿二府四県の国際取引を行っている会員1441社を対象に聞き取り調査を実施したところ、回答した288社のうち8割近くが事態は深刻だとみていることがわかったといいます。回答した企業は、資本金3億円以下が約6割の中小企業、しかも半数以上が製造業です。中小企業、モノづくり企業にこの日中の関係悪化が深刻な打擊を与えることを示唆する調査結果です。
日中関係の悪化が近畿圏の企業を圧迫 – Japan Real Time – jp.WSJ.com :

常識的に見て、日本では最大の輸出相手国で、リーマンショック以降の経済回復を支えてきた対中国輸出にどの程度の影響がでるのかはまだ不明ですが、2011年にあった12.9兆円の輸出額の1割が減るだけで1兆円を超える経済へのマイナスが生じます。中国との関係改善をという経済界からの声があがってくるのも当然ですが、展望はありません。

中国も政権交代による混乱、権力争いは相当広範囲に起こっているようで、反日ナショナリズムを押さえる状況にはなく、また日本も政権基盤が揺らいでおり、中国との関係改善をはかるリーダーシップは望みようがなく、中国との関係をなんとかしようという発想を変える必要があるのでしょう。

日本は、より生産性の高めていくこと、モノづくりの技術を生かして、それと高付加価値サービスとを統合させるといった産業の進化を進めるというよりは、モノづくりにこだわり、モノづくりの限界を抱えたまま、海外市場を広げることで凌いできたのですが、その最も有望な市場を失ったことは、もうその発想では通じなくなります。ブラジルやインドなどの他の市場を求めるだけでは、中国市場で失うものをカバーしきれるかは疑問です。

しかし、そんな危機が目の前に迫っているにもかかわらず、政治は政権交代ゲームを繰り返すだけです。政策で競うのではなく、政策の違いがほとんどないために、相手の政権担当能力がないという主張に終始しているとしか第三者には映りません。

しばらくは産業転換、産業進化に大きく舵を切ること、そのための規制緩和を進めることに日本が集中するいい機会だと思いますが、民主党政権から自民党政権に変わったとしても、経済政策としては相変わらず効果不明で、また副作用の懸念があるとしても、日銀に責任転嫁できる金融緩和政策と、国土強靱化の公共工事を主に打ち出していることを考えると、このままでは期待できないように感じます。

規制緩和に向かうもっとも有効な方法は、中央官庁の裁量行政をなくしていくことでしょうから、地方分権を進めていくことだと思います。維新の会にうまく育ってもらって、その流れをつくることが、おそらく産業構造改革のもっとも近道ではないでしょうか。

経済が停滞すると、どうしてもナショナリズムが台頭してきますが、それでは外交を有利に働かせるためにもっとも必要な日本の影響力や存在感はつくりだせません。やはり経済力を保ってこその外交だということをもっと意識したいものです。