アメリカの大統領選は、選挙巧者のオバマが制した。直前の世論調査では、互角か、ロムニーの方が全米平均ではやや支持率が高かったぐらいだ。しかし、アメリカの大統領選は、投票数が多いほうが勝つわけではない。人口に基づき各州に割り当てられた選挙人の獲得合計数で競う仕組みだ。各州では微差でも、勝ったほうが、その州の選挙人を総取りする。2000年のジョージ・W・ブッシュ対アル・ゴアの大統領選では、アル・ゴアの方が全米での獲得投票数が多かったが、ブッシュの方が勝利した。さらに、多くの州で、共和党優勢か民主党優勢かは、あらかじめほとんど決まっており、これらの州でどれだけ選挙運動をしたところで、ひっくり返すことはほぼ不可能である。結局のところ、オハイオ州、フロリダ州、アイオワ州、ウイスコンシン州などの、どっちが勝つか分からない州で、勝てるかどうかで、ほとんど全てが決まってしまうのである。つまり、これらの田舎の州は、かつての日本の民主党連立与党の亀井静香氏が率いる国民新党のように、議席数が少ないのに、絶大な政治力を持っていることになり、大統領はご機嫌を取るために、公共事業などで様々な恩恵を与えることになる。オバマの選挙チームは、ツイッターなどのSNSや、電子メールなども駆使し、限られたリソースを各州に最適配分し、見事に大統領選を制した。
出所: http://elections.huffingtonpost.com/2012/results
さて、オバマ勝利により、共和党が下院で過半数を維持する一方、上院では民主党が多数を保つ「ねじれ」が続くために、財政の崖を乗り越えられるのか心配される。「ブッシュ減税」などの大型減税が失効し、来年1月には連邦政府の歳出を強制削減することが決まっているので、急激な(崖のような)財政引き締めが予想される問題である。
また、世界金融危機の反省から、バーゼルIIIやボルカー・ルールなど、世界的に金融規制改革が行われている。これらはウォール街の巨大金融機関の収益を圧迫するものだ。オバマはこういった規制強化に賛成しており、むしろ積極的に国際金融の世界で規制改革のリーダー・シップを取ろうとしていた。金融規制の難しい所は、大きな金融機関は多国籍化しているのに、各国に主権があるため、世界同時に実行して行かないと、穴が開いてる所に逃げて行ってしまうことだ。実際に、アメリカは、バーゼルIIの時は、自国の金融機関が規制されることを嫌い、あまり協力しなかったという前科がある。
一方で、ロムニーは、こういった規制強化に反対しており、ウォール街は静かにロムニーの当選を祈っていた。しかし、オバマが当選した。もちろん、アメリカの投資銀行は、バーゼルIIIやボルカー・ルールに対応するために、前倒しで、自己資本規制をクリアし、社内ヘッジファンドの縮小などを行なってきており、オバマが当選したことにより、何かが変わるわけではない。結局、この方向で行くことが、改めて確定したに過ぎない。ただ、また昔のように戻せるかもしれない、という淡い夢が消え去っただけだ。
今日の選挙結果を受けて、アメリカの金融株は暴落している。外資系金融の終わりのはじまりである。