職員が年棒制になると役所はどう変わるのか ―年功序列から能力実績主義へ―

高橋 亮平

昨日、佐賀県武雄市が、10月から市職員の給与体系の一部で年棒制を導入する方針を発表した。武雄市と言えば、図書館のTSUTAYAへの委託や、市のホームページの全面Facebook化、行政による通信販売サイト「F&B良品」による特産物の販売など、これまでも様々な問題提起と話題を提供し続けてきた。
今回新たに提案された市役所職員への年棒制の導入によって何が変わるのか、また市民にとってはどういったメリットがあるのかを考えていきたい。

これまでの役所の人事制度は、全国どこでもほとんどが同じだが、入庁してから同期は、ほぼ同じように昇給し、退職するまでほとんど差がつかない仕組みになってきた。
大きなマイナス評価さえなければエスカレーター式に昇格する一方、人以上に努力して大きな成果を出したとしてもほとんど評価されないことから、内向きの減点評価さえクリアーすれば良いので、リスクをできるだけ取らない安全運転になりがちだった。


一昔前の中央集権の中で、国に決められたことをそれこそ「失敗しないように」仕事をしていれば良かった時代においては、こうした人材が求められていた部分があったともいえるが、2000年のいわゆる地方分権一括法により、国と自治体が対等平等の関係とされて以降は、分権自体は国の執行権移譲にしかなっていないが、自治体に求められる内容が変化して行く中で、職員に対しても求めるべき内容も変わってきていると言える。

「自治体間競争」などと言われることが象徴的だが、他自治体と争うことが重要なのではないが、「今まで通りなるべく失敗がないように」といった思考から「どうすればより良くできるか」という思考への転換が求められるようになった。

有権者の視点で見ると、若手首長の誕生など、革新的な首長を選挙で選ぶと、一気にその街がドラスティックに変わっていくような印象を持つが、実態は今までと対して変わらない…などという現象が起こるのは、自治体経営において、トップの方針や経営能力によって変わる部分がある一方、日常業務を担っている多くの職員の意識や組織風土など体質が変わらなければ実態としての仕事が変わってこないからだ。

行政改革と言うと「事業仕分け」のようなコストカットや事業のスクラップ・アンド・ビルド等を思い浮かべる人が多いと思うが、そうしたこととは別に、もう一つの重要な要素として、役所の組織風土改革や職員の意識改革がある。

「役所の職員は市民のために仕事をする」というのはよく言われることだが、実際には、役所内での内向きな評価基準から、「失敗やリスクを避ける」傾向にあり、結果的に「市民本位」から考えれば導き出されない結果を選択しているケースも少なくない。

役所の組織風土や職員の意識をこうした現状からあるべき市民本位の仕事の仕方に変えるためには、職員にとっても組織にとっても「市民の利益のためにより良い仕事をした方が報われる」というインセンティブが働く仕組みを創ることが、民間以上に重要になる。

こうした中で、役職や年齢によらず、多くの職員に意識改革を行うと共に、モチベーションを上げてもらう仕組みの一つに能力実績主義がある。
しかし、役所で「能力実績主義」の必要性を上げ人事制度を議論すると、「役所には能力実績主義はそぐわない」という意見が必ず出る。
こうした仕組みを取り入れるためには、給料、ボーナスなどに反映する必要があるが、そのためには、誰がどのように評価するかという問題になる。
公務員の能力実績評価は難しいと言われているが、総務や窓口など民間に多くの実績があるものもある。こうしたものも含めできることからやっていくだけでも大きく変えることができるのではないだろうか。

多くの分野において、これまで「役所だからしょうがない」と放置されてきた。
中でも人事制度は、外部からあまり見えないなど、社会環境の影響をあまり受けずにきたため、完全にガラパゴス化してしまっていると言える。
身分保障の緩和については、また別の機会に書くことにするが、こうして既得権益化、ブラックボックス化した仕組みを転換しすることは、単に市役所改革ということに留まらず、地方自治にとって大きな転換になるのではないかと思う。

ただ、確認しておきたいのは、「公務員制度改革」と言うと、マスコミはじめ多くの方は「給料下げること」「天下りポストをなくすこと」など公務員の待遇を下げることや、役人を追い出して政策形成はみんな政治家がやればいい等という議論に走る傾向にあるが、この問題の本質はそんなことではない。公務員の待遇をいくら引き下げたとしても、それによって行政組織が良くならなければ、市民にとってのメリットにならないからだ。重要なのは感情論で「公務員は高い給料をもらって」と待遇を下げることではなく、自分たち市民にとって「行政組織がちゃんと機能する」ようにすることである。

こうした議論は、国家公務員改革の中でも議論されてきたことだが、総理が何人変わり、政権が代わっても改革が一向に進まない現状の中で、国に先んじて、地方で公務員制度改革が動き始めるということに大きな価値がある。

大阪府や大阪市では、先行して職員基本条例が作られ、地方公務員法の枠の中ではあるが、庁内だけでなく外部からも公募し、一般職の職員が局長職のポストに応募されて選ばれた場合は一般職のまま、外の人なら任期付き職員として採用するという仕組みを構築した。
同時に入口の仕組みだけでなく、人事評価についても、上位5%をS、20%をA 60%をB、10%をC、5%をDと5段階による相対評価を行ない、まさに「市民の利益のためにより良い仕事をした方が報われる」というインセンティブが働く仕組みができつつある。
外部人材を含めた優秀な人材を集めると同時に、内部からも意欲と能力のある人材を適材適所で活用し、さらに内部のモチベーションも高めるという意味でも非常に意味のある仕組みだと思う。

大阪では以前から5段階評価は行っていたが、最高評価のSや低評価のCDに評価される事はほとんどなく、実質は中間のAとBでしか評価しない形骸化したものになっていたという。
行政評価等においても同様に「PDCAサイクルをつくることが重要」と言葉では理解しながら、「仕組みづくり」や「形式として実施」することが重要であり、実態として機能していないことがよくある

人事評価においても、実態として職員の評価に差をつけることで、頑張った職員が報われるようにすること、またそこから他の職員の意識改革、組織風土改革につなげることに大きな意味がある。

これまでも再任用など、地方公務員法の中で、条例で策定する個別規定に基づいて条例をつくるという例はあったが、今後は法の精神には沿った上で、地方公務員法の上書きに近いことまで仕掛けていくことで、地方から新たな仕組みを創っていくことが求められる。

今回、武雄市が発表した市職員の給与体系の一部に年棒制を導入することも、こうした人事制度の本質である構造を変える仕組みにすることで、市民サービスや街の価値の向上に結びつくこと、また普段スポットライトのあまり当たることのない行政職員に光を当て、内外においてロールモデルになる「スーパー公務員」が生まれること、さらには自治体発の新しいモデルにつながればと期待する。

高橋亮平