産業再興とNTT

山田 肇

日経産業新聞で「産業再興」シリーズが始まった。元日の見出しは「技術の鉱脈解き放て NTT、ハイテクの礎40年」であった。記事の趣旨は次の通り。

NTTは、電電公社時代からNECなどの「電電ファミリー」を鍛え、携帯電話時代も「ドコモファミリー」とともにハイテク産業の裾野を広げてきた。ハイテクの世界競争は、ソフトからハード、サービスまでの総力戦に入った。日本はすべてを作れる数少ない国だ。その厚みを使わない手はない。NTTが潜在力を解き放てば、再起への一歩を日本も踏み出せる。


時代錯誤的な、この記事全体に大きな違和感を覚えたが、ここでは二点だけ指摘しよう。

電子交換機や大型汎用計算機の開発が、電電ファミリーで進められたのは事実である。その後、日米通商摩擦の中で電電公社の資材調達が大きく取り上げられ、1980年代前半には、GATT政府調達協定に基づいて内外無差別に調達するという形に大きく変貌した。こうして30年前に崩壊した電電ファミリーを復活させようというのだろうか。そもそも、電子交換機や汎用計算機のような大型開発が今求められているのだろうか。

「ハイテク分野の実力を示す物理学の論文総被引用数でNTTは世界2位」「シールのように貼り付けられる発光ダイオード」「自動車のボディに貼って発電できる太陽電池」と、部品系のトピックが並べられているが、市場競争の焦点はそのような部品にあるのだろうか。

自前コンテンツを一切持たないアマゾンや、デバイスを外注に委ねるアップルが世界を席巻しているのはなぜか。それを考え、対策を練り上げない限り産業再興はない。

その切り口の一つは、明らかに規制緩和である。NTTが始めた検索サービスGooは著作権法でつまずき、国内市場はグーグルに握られた。NTTは医療介護連携サービスも志向しているが、制度の壁の中で小規模な実験にとどまっている。これら過剰な規制を緩和し、新しいサービスを大胆に展開できるようにすることが、今、求められている。

山田肇 -東洋大学経済学部-