政権交代を経て「デジタル教科書」をめぐる議論は第2ステージに --- 中村 伊知哉

アゴラ

もうやめよう。説明するのは。バカていねいに。もう場面が変わった。アホにはアホと言おう。
そう確信したのであります。

デジタル教科書・教材協議会(DiTT)のシンポジウム。2012年12月19日、秋葉原。
総選挙から3日後、政権交代が確定しながら、新政権がどういうスタンスで来るかわからない段階。
ぼくらはもう政府に期待をしすぎない。それより、地方、地域、学校現場のミクロで、力強く運動していく。

そこで。


佐賀県武雄市樋渡市長、大阪府箕面市倉田市長、東京都荒川区西川区長。
デジタル教科書の普及を推進する3自治体の首長に登壇いただき、お尋ねしたんです。
教育情報化を進めることに、こんな疑問が寄せられてるんですが、って。

すると、いずれもアホちゃうか、ってボコボコにされたんです。
いや、ぼくが疑問を持ってるわけではないんですがね、いつも突き上げられてることを伝えたら、そんなんに答えられない「お~ま~え~は~あ~ほ~か~」横山ホットブラザーズ状態にさらされたわけです。

質問その1「教育情報化の効果、成果を示せと攻められるが、どうする?」
・そんな議論がまだあることが情けない。成果なんて、出尽くしてる。
・紙の教科書や鉛筆を入れた時にそんな問いがあったか?
・それを聞くヤツは会社の情報化の成果を示せと迫ったんか?

そう、成果は出尽くしてる。100年後も効果や成果を問うことはできる。だから、それを待ってたらいつまでも実施されません。紙の教科書を入れた成果だって今も問うことはできるでしょ?質問に乗ってはいけない時期に来たということなのでしょう。

質問その2「教育情報化の予算、財源をどうするんだ?」
・それを何とかするのが首長の役割だ。やるということが第一で、手段は第二。
・予算や財源を持ち出すのは、やらない理由に過ぎぬ。
・教育情報化に課題なんてない。必要なのは、首長のやる気である。

そうか、課題なんてないんだ。それを上回る意志があるかどうかなんだな。

このシンポには橋下政権の大阪市教育センター沢田さんにもお越しいただきました。この分野で遅れを取っていた大阪市は、今年から実証研究を始め、2015年に全市でデジタル教科書の展開を計画しています。ビックリ。むろん首長が爆走して「やるぞ」って勢いなわけです。やはり「一気にやる」パワーは、首長の心づもり一つだそうです。

質問その3「学校をネットでつなぐとプライバシーが流出するとか言われるんですけど。」
・ハァ? アホか。
・やらない理由を唱えているだけ。
・何か流出したのか?して困ったのか?そんなこともないのに怖がって止めてるのか?

いや、そうなんです。これに関しては楽屋で小宮山DiTT会長(前東大総長)も、「問題があるなら裁判起こさせりゃいいんだよ、日本は大抵のことは合法でスルっと行けるんだよ」と話してましたが、とにかくこの未然に問題を減らすためにコトを起こさないビビリ感が、10年以上日本を覆う最重要問題でありまして、その空気を換えなければいけません。

首長さんがたからは、いろんなメッセージがありました。
「先生や生徒のリテラシーなんかいらない。使わせればすぐ使えるようになる。」「先生たちはみなおもしろがっている。先生に拒否感があるなんてのはデマ。」「隣の地域で導入してるのにウチではなぜできてないのという、保護者の嫉妬をあおるのがいい。」「学力がどうなるかより、子どもがどう変わるかが大事。」「校長先生に自由に使える資金を渡している。創意工夫が重要。」「タフな端末と、バッテリー改善がカギ。」

う~ん、全部ささってきます。

文科省上月審議官、総務省阪本政策統括官というイケイケ官僚2名にも登壇いただき、進めようよという力強いメッセージもいただきました。そう、今回は4自治体にお越し頂いたんですが、これを早く50自治体に広げようと思います。
 
申し遅れました。パネルに先立ってぼくから活動報告したんです。プレゼン原稿置いときますね。
「DiTTは今年の4月に提言を発表。デジタル教科書実現のための制度改正を求めた。政府、政党に働きかけを行った。それまでタブーとされてきたことだが、もうその時期だと判断し、切り込んだ。その2ヶ月弱後、政府がそれら制度改正を検討することを知財計画2012で正式決定した。場面が切り替わった。大きな政策転換が行われることが期待できるところまできた。

その手を緩めず進めるため、デジタル教科書法案を自ら準備しようということで国会議員、官僚、弁護士など法律の専門家も入ったWGをDiTTの中で作り、3つの法律の定義を直す、といった具体的な制度改正案を作った。また、デジタル教科書の標準化も重要課題になると考え、現在その活動に力を入れている。

一方、政府の実験が仕分けに会ったり、またしても選挙で方向が不明確になったり、政府に頼ってもいられない。そこで6月、宣言書「ステイトメント」を公表した。制度改正や予算拡充を求めるものだ。広く有識者の賛同を求めた。各界のかたがたから賛同を得たが、何よりも驚いたのは、1月以内に50もの地方自治体の首長のかたがたから賛同が寄せられたこと。被災地の町長、23区の区長、政令市の市長、県知事などさまざま。自治体や学校など現場に近いところが主導していく。これが本来あるべき姿。そうした機運がここに来て一気に盛り上がってきた。デジタル教科書の推進運動も第二ステージに入った。」

ニコ生は3万人の参加。熱は感じます。今回の政権交代はこの活動にとってラストチャンスだと思います。2013年には場面を切り替え、全国の推進セクターとともに、体重の効いた歩みで揺るがしていきましょう。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2013年1月25日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。