日本原電は行政訴訟を起こせ

池田 信夫

原子力規制委員会は28日、日本原電の敦賀原発2号機の直下にあるD-1破砕帯について、「活断層の可能性が高い」とする報告書案に合意した。これを受けてどうするかは決めていないが、田中委員長は「今のままでは再稼働の安全審査はとてもできない」と述べており、廃炉になるおそれが強い。


審査するかどうかは委員会の裁量だが、それを無期延期して実質的に廃炉に追い込むとなると、法的根拠のない行政指導である(これは政府も認めている)。2号機を廃炉にすると1000億円の資産が失われ、日本原電の経営は破綻するおそれが強い。適法に建設した事業者に瑕疵はないので、法的には日本原電が合意しないと廃炉にはできない。

したがってどうしても規制委が廃炉にしたいのなら、廃炉費用を国家賠償して事業者との合意の上で廃炉にするしかない。この場合、2号機だけで1000億円の賠償が必要になるが、これが適法な支出として国会で認められるかどうかは疑問だ。廃炉処分に法的根拠がないからである。

規制委も再稼働を禁止できないことは認めているので、敦賀の審査を延期するだろう。現在の耐震基準審査も2006年から始まって完了していないので、同じテンポでやると2020年ぐらいまで引き延ばすことができる。これも適法だが、やるなら原発を運転しながら審査すべきだ。これまでの審査も運転しながらやっていたので、瑕疵が発見されていないのに止める理由がない。

規制委の方針には法的根拠がないばかりでなく、科学的根拠もない。日本エネルギー会議のシンポジウムでも多くの専門家が指摘したように、活断層は日本中にあり、それを避けていたら原発はできない。山崎晴雄氏(首都大学東京)によれば「強い地震動が起きるのは地下深部(3~20km)であり地表付近ではない。断層の上だけ特に地震動が大きい訳ではなく、建物への影響は活断層より地盤条件の方がはるかに大きい」。活断層の規制が弱いのは、それほど決定的なリスク要因ではないからなのだ。

このような規制委の暴走に対して、日本原電が「D-1は活断層ではない」という主張だけを繰り返してきたのは誤った戦術だ。そもそも活断層は運転とは無関係なのだから、訴訟に持ち込んで運転認可を求めるべきだ。敦賀2号機は定期検査もストレステストも終わっているので、経産省が使用前検査を認めれば再稼働できる。

今後も大飯などで同様の問題が発生すると予想されるが、関係者によれば規制委の「40万年以内」という新基準を遡及適用すると、玄海以外のすべての原発が廃炉に追い込まれるおそれがある。電力会社はこれまで政府の善意を信じて「お願い」してきたが、今の規制委は常識的な話の通じる相手ではないので、行政訴訟で対抗するしかない。

事業者が監督官庁を訴えるのは、アメリカなどでは日常茶飯事であり、何も恥ずかしいことではない。これによって政府と事業者の間に「適度な距離」ができることは、regulatory captureを避ける意味でも望ましい。