全柔連とAKBは五十歩百歩

2013年01月31日 22:12

2013年7月X日、スイス・ローザンヌ。 “鬼塚十郎”は、ほろ酔い加減でホテルの自室に舞い戻ってきた。五輪の開催計画を巡るIOC委員へのプレゼンテーションまであと3日。電通スポーツ局の五輪担当として訪れていた鬼塚は多忙の業務の合間を縫い、先程まで旧知の日本人記者と地元のバーで酒を酌み交わしていた。IOC委員の間で東京の高評価が堅調に推移していることを記者から聞いて安堵感とともにプレゼンの本番へ更なる気合を漲らせていた。


鬼塚が就寝前にふとテレビを付けると、アイスホッケーで試合外の乱闘シーンの映像が目に入る。画面に動きはない。スチールを使用しているようだ。その後も、フランス語のナレーションが何かを伝える中、サッカー場で荒れるサポーターと選手がもみ合う場面、大リーグの乱闘シーンを切り取った静止画が映し出されている。「何かの啓発CMだろうか」。フランス語を解さない鬼塚が首をかしげると、柔道着を着た白人の少女が泣いている写真が目に入る。

「やられた」。鬼塚は青ざめた。画面では「Non Violence」の二文字が大写しにされている。広告業界を渡り歩いて十何年になる鬼塚はある悍ましい推測が脳裏に浮かぶ。一見、スポーツからの暴力排除をうたう啓発CM。内実は、日本柔道界と暴力問題を連想させる、招致ライバル国の巧妙なプロモーションなのではないか――。

・・・・・・三文小説が長くなってすいません(汗)。ここからはリアルの話。昨日、都内で行われた五輪招致のトークイベントを少し見学させてもらった。ローソンの新浪社長やヤフーの川辺副社長、競泳の寺川選手らが登場してなかなか楽しい催しとなり、この日にぶつけるように都民の招致支持率が初めて70%を超えたという報道もあって、さぁこれから!と思いきや……。記者席は空席が目立っていたのは私も残念だった。柔道女子代表の暴力問題で、JOC担当記者はお祭りを取材しているどころではなかったに違いない。

今回の監督辞任、全柔連会長のJOC委員辞任で国内的には一区切りだろうが、海外ではAPBBC等でこの問題が報じられている。これからIOC評価委員会の視察など招致活動が山場を迎える中、イスタンブールやマドリードから見れば格好の「敵失」と位置付けられるだろう。電通社員・鬼塚やCMのお話は完全に僕の妄想の産物だし、そこまで悪知恵に基づいた日本のイメージダウン戦術はないと信じたいが、東京の招致委が国外向けのPR対策を早急に迫られているのは間違いない。

それにしても全柔連の対応はお粗末だった。上意下達の世界にあってトップ選手たちが”捨て身”の覚悟で人事見直しを訴えた時点で、チームとして機能しないでしょ。監督本人も事実を認めているのに、会長が問題発覚後も監督を更迭しなかったのは遅きに失した。危機管理的には後手後手に回る最悪のパターンを確実に踏襲した。

一方、柔道の問題が報じられるさなか、こちらの女性アイドルグループは、男性との交際が週刊誌に報じられたメンバーが研究生に降格、丸刈りで謝罪する一手に出た。去年は同様の件が発覚した他の人気メンバーを地方の系列に左遷して乗り切り、「ほー、その手があったか」と思ったが、20歳の女性に丸刈りをさせる今回の「演出」はどうなんだろうか。

古くは「西山事件」で時の政府中枢が、日米間の密約問題から男女のスキャンダルへと世間の耳目をそらしたように焦点を巧妙にすり替るのはよくある手法。丸刈りの衝撃度で話題性をずらし、“禊”のメッセージを明瞭化したつもりかもしれないが、アーティストの人権的にはどうなのかな?不祥事を起こしまくった企業の社長が丸坊主なら分かるけど、選手の人権を軽視した全柔連と根っこの部分はあんまり変わらない気がするのは私だけだろうか。ちなみにヤフーのリアルタイム検索をかけると、「やり過ぎ」「分からない」「怖い」といった意見が目立っていた。

新田 哲史(にった てつじ)
メディアストラテジスト

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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