行き過ぎたナショナリズムは国家間の不必要な緊張をも生み出します。島根県主催の「竹島の日」記念式典に日本の政府代表が出席したことに反発して、朴槿恵氏が大統領に就任したばかりの韓国で、会員数約600万人に上る「小規模商店街再生消費者連盟」が3月1日から日本製品の不買運動を始めるといいます。「小日本帝国」の旗を掲げた抗議デモも起こったようですが、そういったナショナリズムは、やがて韓国の将来に決してプラスにならないどころか、やがてツケとなってくるように感じます。
時事ドットコム:日本製品の不買運動へ=「竹島の日」に反発-韓国団体 :
駐韓日本大使館前で「竹島の日糾弾」集会 | Joongang Ilbo | 中央日報 :
国内市場の小さな韓国は貿易依存度が高く、輸出入をあわせた貿易額は2005年あたりから上昇の一途で、日本の外務省のデータでは2011年に韓国のGDPと比べると96.7%に達したということですが、日本や米国が20%台、中国でも50%程度というレベルとは比較にならないぐらい貿易頼みなのです。ちなみにデータが異なりますが、韓国銀行と韓国の統計局の調べでは、110.3%で過去最高だったそうです。
【韓国】昨年の貿易依存度、110.3%で過去最高[経済]/NNA.ASIA :
海外に経済を依存して生きている国は、海外の経済や産業の変化、とくに為替の変動や競争関係の変化の影響を受けやすく、いいときにはいいけれど、いったんつまずくとそれを支える国内市場というダムを持っていないために、もろに影響を受けます。
国内市場を育てることと、貿易相手国との関係を良好に保つことが韓国経済を安定させる重要な戦略になってくるのですが、自らがその障害となる「日本製品不買」を展開するということは、まったく常軌を逸しているとしかいえません。
中国がナショナリズムを煽り反日暴動を起こしたツケが、日本からの直接投資に急ブレーキがかかってしまい、中国の経済成長力にマイナスの影響となったように、韓国のナショナリズムもやがては不安定要素となってきます。いまのところ、日本と比べると圧倒的なロビー活動によってなんとかやっているということでしょう。
今のところは、液晶テレビでの競争で日本ブランドを駆逐し、また急成長してきたスマートフォン市場で高いシェアを占めてきたことなどが、韓国経済を勢いづけていますが、この分野の市場の変化は激しく、いつまでもこの状態が続くという保証はまったくありません。
液晶テレビでも、スマートテレビの時代がやってきますが、そうなるとテレビのビジネスの主導権が、コンテンツを流通させるプラットフォーム側に移ってくることは避けられません。ますます液晶テレビはただのデバイスでしかなくなり、台頭してくる中国製品との激しい価格競争も避けられなくなります。
スマートフォンも、普及が急速であればあるほど成熟もはやく、いつまでも成長市場でありつづけることはできません。先進国での市場が成熟してくると、先進国では機器よりもサービスに焦点は移ってくるでしょうし、途上国ではやはり価格競争が始まります。
さらに、日本は貿易赤字が拡大してきており、それが円安トレンドを下支えしています。また米国も円安を容認し、ドイツの中央銀行のバイトマン総裁も「ユーロ切り上げは深刻な水準ではない」となれば、当面は円安、ウォン高が続くのではないでしょうか。
その影響をもろに受けるのが産業構造が日本と似ている韓国です。ただでさえ、欧州の財政危機による輸出の停滞で景気が下振れしてきているうえに、日本の産業との競争力が低下してきます。すでに韓国では企業収益を下方修正する動きも始まっているようですが、韓国経済の成長力も鈍化し、円が1ドル=100円に迫れば韓国の輸出は6%減少するという観測もあります。
【社説】円安ウォン高に非常対策が必要だ=韓国 | Joongang Ilbo | 中央日報 :
韓国経済はかなり厳しい局面に向かってきていると感じますが、日本では韓国製品不買運動などが起こってこないことが、韓国との先進国としての成熟度の差をみせつけています。
韓国からすれば、輸入相手国では日本は中国に続いて13%を占めていますが、輸出相手国としては日本は第4位で7%と、韓国からすれば輸入超過、日本からすれば輸出超過で、日本で韓国製品不買運動を行ったとしてもたいした効果が望めません。国民が感情に走らず、冷静に対応していることが日本の強みになってくるものと思います。
朴槿恵韓国大統領は、李明博前大統領が残したナショナリズムの負の遺産にどう対処するのかという大きな課題を抱えての大統領就任ですが、北朝鮮による脅威に対しては日韓の関係改善は避けられないところであり、なんらかの動きが求められます。安倍内閣の経済政策は、失敗すれば日本経済をどん底に突き落としかねないリスクを抱えていますが、外交に関しては安定した運営を行なっており、日韓の関係改善にも期待したいところです。