Surfaceは爆発的にヒットする

渡辺 秋男

3月15日、いよいよ日本国内でMicrosoftのタブレット端末「Surface」が発売される。

IMG_0013
写真はアップルストア銀座の向かい側、百貨店壁面のSurface巨大広告。

昨年12月、オペレーティングシステムであるWindows 8の発売と同時に、米国では「Surface」も発売された。Microsoftが初めて出すタブレット型のハードウェア端末だということもあり、大いに注目されていたのだが、日本では、Windows 8は発売されたものの、「Surface」の発売だけが延期されてしまったのだ。私は生粋のMacユーザーだが、Microsoftがつくったハードウェア端末を見たかっただけに、心底がっかりした。

しかし、待ちに待ったその「Surface」がやっと日本で発売されることとなった。


そもそもタブレット端末とはPCと比べてどんな存在なのか。2010年、初代iPadの発売をきっかけに、様々なタブレット端末が急激に普及したわけだが、昨今のタブレット端末は、PCに当然備わっていた「目的」や「機能」を制限し、安価なパーツで構成された、いわばPCの廉価版というような存在であると私は考える。我々は20年以上もPCのマルチウィンドウを使ってきたにもかかわらず、なぜこんなにもシングルウィンドウのタブレット端末に執着するのだろうか。

私は、使う人間側がマルチタスクではないので、複数の画面インターフェースを与えられてもうまく使いこなせなかったのだろう、と思う。何より現行のiOSはフルスクリーン表示が当たり前になっており、複数のアプリケーションを同時に画面に表示することはできない。マルチウィンドウを使いこなしていた人にとっては未だに慣れないインターフェースかもしれない。いわば、これまでのOSのデチューンといえるだろう。しかし、デチューンといっても悪いことを指すわけではない。目的を達成するために、あえて性能を抑えることが、メカの世界ではよくあることなのだ。

この意識的なデチューンの結果、多くのユーザーがiPadを購入し、子どもから老人まで(先日退位した前ローマ法王までも)使いこなせる端末として普及した。iPadにはOSを「退化」させることが必要不可欠であったのだと思うし、そのおかげで、ソーシャルネットワークやクラウドサービスというものを幅広いユーザー層にとって身近なものにしてくれたのではないかと思う。

話をSurfaceに戻そう。

そもそもWindows 8には、ハードウェア(CPU)の種類に応じた2つの製品がラインナップされている。1つはこれまでのWindows XPや7の発展形であるWindows 8、もう1つは、タブレット用に開発されたCPUが搭載されている端末上でのみ作動するWindows RTである。(購入する際は注意が必要!)

しかるに、Surfaceに載っているオペレーションシステムも、当然Windows8とRTの2種類が存在することになる。ちなみに、3月15日に日本で発売される「Surface」はRT版のみである。Windows 8が搭載されているSurface(正式名称「Surface Pro」)の日本での発売は未定である(2013/3/8 現在)。

どちらもWindows 8シリーズであることは間違いないので、画面の感じはほとんど変わらない。しかし、Windows RTの場合、従来のintelベースのCPU上で動作しているわけではないので、これまでのWindowsアプリケーションはインストールもできないし、動かない。Windows 8の方は従来通りのWindowsであるため、過去のアプリケーションの多くも動作する。

「Windows RTより、いわば本物のWindowsが載っているWindows 8のPCの方が機能的に優れている」みたいなレビュー記事が、様々なメディアで紹介されているけれども、私は、iOSに代表されるデチューンから考えると、そうとも言い切れないのではないかと思うのだ。例えば、Windows RTは無駄を削ぎ落とされたOSだから軽快な動作も期待できるし、低消費電力のCPU上で動作するから駆動時間も長くなる。

個人的に一番興味があるのは、RT版のWindows 8には「Office 2013 RT」というアプリケーションがプリインストールされていて、低価格であるにもかかわらず、最新のWord・Excel・PowerPointを標準で利用できる。通常版のWindows 8には、基本構成の中にOfficeは含まれていないので、必要があれば追加でアプリケーションを購入し、インストールしなければならない。

これまでもOfficeが搭載されている小型のノートPCはもちろんあったが、CPUやメモリが非力だったし、また、当然Android版のOfficeは存在しないので、Android上で動くOffice互換のワープロや表計算ソフトを使うしかなかった。これらは互換性に問題があったり、操作性の違いが思いのほか煩わしく、なにより「ニセモノ」感が我慢できなかった。

タブレット端末を提供するメーカーにとって、「一般ユーザーに必要なものは、せいぜいネットとメール、あとはツイッター等のSNSへの参加ができれば十分だろう」という考えが強かったのかも知れない。しかし、実際仕事で利用する場合は、ネットとメールだけでは対応しきれないケースが多い。WordとExcelが不可欠なのだ。

本物のWord・Excel・PowerPointが持ち運べ、しかもタッチ操作で扱えるということが「Surface」の最大の魅力だ。通常、PowerPoint付きのOffice 2013は3万円以上する。あと少し金額を足せばソフトだけでなくハードも一緒に購入できると考えれば、「Surface」は非常にお得な商品だといえるだろう。

「ほんとうは、本物のWord・Excelが使いたかったのに、仕方なくAndroidのタブレットを買うしかなかった」という人が潜在的にはかなりいるのではないか。そんな人たちにとって、「Surface」は理想のタブレット端末であるのは間違いないし、iPadがヒットしたように、ユーザーフレンドリーな「Surface」も爆発的にヒットするに違いない。Macな日常を謳歌している私ではあるが、そんな気がしています。

(渡辺 秋男/クレセントエルデザイン代表)