東京新聞が「極秘条件 6月には把握 TPP 政府公表せず」という記事を掲載した。後からTPP交渉に参加する国は、すでに合意した条文は原則として受け入れ、交渉を打ち切る終結権もなく、再協議も要求できない、という条件を突きつけられる。カナダとメキシコはこれらを受け入れたが、日本も同じ条件を突きつけられるに違いない。この不利を極秘にしている政府はけしからん、というのが記事の内容だ。
バカか。東京新聞の無知にも困ったものだ。
すべての参加者が満足する結論を見出すことは、どのような交渉でも不可能だ。交渉が成立するというのは、すべての参加者がそれぞれ妥協し、それぞれに痛みはあるが全体としては受け入れざるを得ない、という地点に達することだ。交渉が進みすでに合意したことを後発参加国が蒸し返すと、先発国も妥協点を問い直さざるを得ず、交渉は長期化していく。これを避けるのが、後発参加国は、すでに合意した条文は原則として受け入れ、交渉を打ち切る終結権もなく、再協議も要求できない、という条件である。
交渉ごとではごく当たり前の条件を突きつけられて、なぜ、東京新聞は怒るのだろう。それは、東京新聞が交渉の進め方を知らないからに違いない。国際的な交渉は「ロバーツの規則」と呼ばれる会議規則に沿って行われる。議題の設定から審議の手順・意思決定の方法まで、そして記事の焦点である『一事不再議』もすべて「ロバーツの規則」が定める原則である。
先般、ぼくはアゴラに「『スポーツは政治だ』なんて、まだそんなことを言っているの?」という記事を掲載した。すべての参加者が合意する妥協点を見つけるのが交渉ごとである。だからこそ、他の参加者の納得を得つつ、自国(自社)に有利な地点で収めるテクニックを磨く必要がある。それは、オリンピック開催地の選定でも、無線LANの国際標準化でも同じ。ましてや、TPPでは間違いなくその通り。
自国に有利な決着を図りたければ、できる限り早く交渉に参加すべきである。いまだにそれがわからず、安倍総理大臣の足を引っ張る連中がいる。今日3月8日の予算委員会では、記事を元に日本維新の会が質問したようだが、国際的な会議規則を知らないで質問したとしたら、恥ずかしい限りだ。
山田肇 -東洋大学経済学部-