ブックオフ創業者が69歳ではじめた「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」 --- 内藤 忍

アゴラ

日経ビジネス(2013.3.25.号)に坂本孝という経営者が登場しています。あのブックオフコーポレーションの創業者で、現在はレストラン運営会社「俺の」の社長として活動しています。

ブックオフというのは、新刊書店に近い古本屋という新しい概念を作り、古本業界に革命を起こした会社です。2004年に東証2部、翌年には東証1部に上場という華々しい成功を収めましたが、2007年に不正会計問題が発覚。坂本氏は、会長を退任しました。

その後69歳で設立したのが、バリュークリエイト(現「俺の」)です。この会社は「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」といったお店を2013年2月までに11店舗オープンさせています。東京では予約の取れないお店として、大変な人気です。


私も去年の夏に行って時のことをこのブログに書いています。既成概念を打ち破る、革命的なお店です。
このような型破りなお店を作った坂本氏の発想はこうです。

東京で繁盛しているお店の過半数はミシュランの星付きレストラン。一方で消費者の価格志向は強まっている。そこで一流の料理人が腕を振るう立ち飲み屋という発想を思いつく。

人件費と材料費を湯水のように使い、高級食材を使った料理を1000円台で出す。食材の原価率を60%以上に設定しても、1日に3.5回転すれば、1店舗で1か月に100万円以上の利益が出る。口コミで評判が広がれば、宣伝費をかけなくても集客ができる。そして、人材派遣会社を通じて星付きレストランのシェフを引き抜いていく。

坂本氏の行動を見ていると、真の企業家というのが本当にピッタリと当てはまります。京セラの稲盛会長から「商売の天才」とまで言われた人です。「俺の」シリーズがどこまで広がっていくのか。興味は尽きません。

ブックオフから俺の、へ。これを見てわかることは、商売には業種はあまり関係ないということです。飲食店の素人であっても、いや素人だからこそ、新しい業態を規制の概念に捉われることなく生み出すことができるのです。

飲食店の原価率は平均で20%といった数字が頭に入っている業界の専門家には60%にすることなどはなから思いつくことは無いでしょう。素人だからこそゼロベースで物事を考えることができたのです。

「俺のイタリアン」に行って少し気になったのは、アルバイトの店員が疲弊しているように見えたことです。時間制のイタリアンですから、お客さんが湯水のように注文をしていきます。接客担当者は常に仕事を続けなければならない。注文をさばくのに追われて、サービスに気を配る余裕は感じられませんでした。

オーナー、社員、アルバイト、そしてお客さんと取引先。すべての人が利益を得て、ハッピーにならなければ継続的な企業の成長はあり得ません。坂本氏は稲盛氏の唱える「利他の精神」を自身の経営で証明しようとしていると言います。どんな経営手腕を発揮するのか。これからが本番です。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2013年3月24日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。