オバマ大統領がイスラエルを訪問した理由と日本の取るべき対応

山口 巌

オバマ大統領が再任後初めての外遊先にイスラエルを選んだ。その背景や、日本が取るべき対応について考えてみたい。


先ずは世界が「今」直面するリスクである。

矢張り定評のあるEurasia Group Top Risks 2013を参照すべきであろう。

何といっても今年のレポートで特筆すべきは五番目に入っているJIBs – Japan, Israel and Britainだと思う。

但し、Britain(英国)に関しては没落するEUに足を引っ張られるリスクという話なので、中国の脅威に晒される日本やイランの核攻撃の標的となるであろうイスラエルとは明らかに異なった話である。

日本についていえば、先月安倍総理がオバマ大統領を訪問し日米同盟の深化を確認した。その結果、中国包囲網が実現に向け動き出したといって良いのではないか?

そういえば、最近尖閣での領海、領空侵犯のニュースがめっきり減った様に感じる。

一方、インド、日本の新幹線採用…首脳会談で合意へが判り易い例であるが、日本とインドの交易の活性化が予想されるなど、北東アジアからインドにかけての安全が保障され、日本との交易が活性化される見込みである。

今一方のイスラエルについていえば、イランが核開発を継続しており、核弾頭を塔載したミサイルがイスラエルに向けて発射される前に、イスラエル空軍がイランの原子力施設を爆撃せざるを得ない状況に追い込まれつつある。

国際社会が中東に期待するものは昔も今も「石油の安定供給」である。多くの日本人は中東での事件を対岸の火事として眺めているが、この統計資料によれば、今尚日本は原油の80%以上を中東に依存しており、ペルシャ湾経由やって来る。

従って、イスラエル空軍の空爆からペルシャ湾が火の海となれば日本経済は滅茶苦茶になってしまう。

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こういう話をすると、「イスラエルの暴挙!」と批判する人(日本人)が多いのは事実である。彼らは、1981年6月7日に実行されたイラク原子炉爆撃事件の顛末をすっかり忘れてしまっているのである。

成程、この空爆は国際世論の激しい非難に晒された。しかしながら、これによってその後の湾岸戦争でのミサイル被弾の被害を最小限に抑える事が出来た。

空爆がなければエルサレムは完膚なきまでに破壊されたであろう。この体験はイスラエル国民に刷り込まれており、結果、空爆の支持が高いのだと推測する。

エルサレムはイラクの短距離弾道弾スカッドを被弾した。しかし、イスラエルはオシラク核施設を空爆してイラクの原爆生産を阻止してあったので、イラクの武器庫には核弾頭がなく、エルサレムは通常弾頭スカッドを被弾しただけだった。そのためエルサレムの被害は小規模で済んだ。

BBC News 他資料を参照しての私の見立ては下記の通りである。

先ず、オバマ大統領のイスラエル訪問の目的は中東地域を安定化さす事で、引き続き石油が世界市場に安定して供給される体制を構築する事。

そのためには、イランを孤立させ「核開発停止」を受諾させる必要がある。

中東でイランと関係の深い国といえばシリアである。Syria unrest: UN probes ‘chemical weapons’ in Aleppoを読む限り、NATOの軍事力行使が秒読みと思われる。

一方、MI6 tests smuggled Syria soil for nerve agentは「映画007」そのものだが、イラク侵攻で「大量破壊兵器」の物証が結局見つからず、国際社会の批判を浴びた反省を踏まえ、事前に毒ガス使用の証拠固めに動いているのだと推測する。

イランを孤立させたら、次は「封じ込め」に向かう。イスラム社会で唯一「政治」と「宗教」の分離に成功したトルコを重要国として遇し、親米的でイスラエル和平路線を継承するヨルダン、キャンプデービッドの合意における当事国エジプト、それからサウジやサウジに雁行する湾岸の産油国などで穏やかなイラン包囲網を構築する事になるのでは?

今回のオバマ大統領のイスラエル訪問が周到な準備の下に行われた事を示すのが、下記の素早い動きである。

仲違いをしていた、イスラエルとトルコ関係修復の仲介。Israel PM apologies for Gaza flotilla deaths

オバマ大統領の仲介により、イスラエルのBenjamin Netanyahu 首相が遺族補償の確約と共に詫びを入れ、受け入れられた訳である。オバマ大統領の面目躍如といって良いだろう。

Benjamin Netanyahu also agreed with his Turkish counterpart Recep Tayyip Erdogan to compensate the families of the nine activists who were killed.

Mr Netanyahu had previously only expressed regret for the deaths.

The deal was brokered by US President Barack Obama during a visit to Israel.

Mr Erdogan’s office said he had accepted the apology, “in the name of the Turkish people”.

更に、間髪を入れず今後中東和平への大きな貢献が期待されるヨルダンに対し二億ドルの資金提供を約束している。

今回のオバマ大統領のイスラエル訪問によって中東和平に至るシナリオが世界に提示され、トルコとヨルダンという二つのコアな国に対し極めて有効な布石が打たれた訳である。

懸念が残るのは「絵に描いた餅」にならないか?という疑念が払拭されない事にある。

中東問題に精通された野口先生の中東の窓を読む限り楽観は出来ない。

参照されたパレスチナ紙の風刺漫画は何もパレスチナ国民の思いに限らない。中東に住むイスラム教徒、更には全世界のイスラム教徒の思いを代弁していると思う。

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上のキャプションはオバマのパレスチナ・イスラエル訪問とあります。オバマとおぼしき人物がイスラエルと思しき人物に『我々のハートは貴方とともにある」と語っており、彼のかばんには「援助、支持、連帯」と書いてあります。磔になっている女性はパレスチナでしょう。

長々と書いたが日本の取るべき対応とは?を簡単に提案してこのエントリーの結びとしたい。

先ず、短期的にはイスラエルによるイラン空爆の可能性が高い事から下記を提案する。

停止中の原発を再稼働させ化石燃料消費の軽減を図る。

日本経済維持のためには民間のタンカーにはペルシャ湾に行って貰わねばならない。従って、自衛隊によるアラビア湾航行日本タンカーの護衛が必要となるので予め必要な法整備をしておく(戦闘地域故自衛隊は派遣出来ないなどはあってはならない)。

集団的自衛権行使認可についても予め決着しておく事が肝要と思う。

中・長期的にはエネルギーソースの分散による対中東Exposureの軽減や、省エネ技術加速やライフスタイル変更(例えば自動車利用を止め自転車を利用する)によるエネルギー低依存社会の実現という事になる。

山口 巌