「待機児童」数、実は360万人超? 多様な保育サービス事業者の参入を!

2013年04月03日 06:00

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石川和男
NPO社会保障経済研究所代表 東京財団上席研究員

af9920042547l-s幼児の保育所入所を待つ「待機児童の解消」がなかなか進まない。読者の方の中には、自分にとって切実な問題として向き合っている人も多いのではないだろうか。表面に現れている数字よりも、実態はもっと深刻だと思われる。

厚生労働省は待機児童数を4万6172人(平成24年(2012年)10月1日現在)と算出している。筆者は、潜在的な待機児童数を360万人超と推計した。こうした数値は、前提の置き方によって大きく変化する。どちらが正しいかは、それぞれの価値観による。

(写真はイメージ、ペイレスイメージ社提供)


この問題は、日本の経済・社会を蝕んでいるように思えてならない。「待機状態」を解消することは、保育サービスを直接受ける児童だけでなく、児童の親である現役世代への恩恵が大きい。就学前の児童を抱える親たちにとって、働きやすい環境が整っていることは極めて重要だ。

育児によってその能力を発揮する機会が奪われかねない親にとって、保育サービスの充実は、職場を確保することを後押しするだけでなく、少子高齢社会で労働力を確保するための国家政策としても、今後ますます重要となるはずだ。保育サービスの充実に向けて、現実を正確に把握した上で早急に対策を施す必要がある。それは民間事業者など多様な事業主体の力の活用することだ。

行政の試算は外れる場合がある

行政による統計を見る時、気を付けなければならないことがある。試算値は、前提の置き方によって、全然違う結果が出てくるということだ。行政は虚偽を嫌うし、むしろ非常に緻密で精確性を重んじる。一方で、人間の心理として、既存の政策を支持する情報に注目しがちだ。

厚生労働省の調査によると、認可保育所に申し込んでも入所できない待機児童は平成24年10月1日現在で4万6172人となっている。保育所利用児童数の212万人に比べれば、待機児童数は少なく見えるかもしれない。

ところが、これは潜在的な待機児童数は本当は何人いるのか、という問いに対して実情を反映したものとはなっていない可能性がある。厚生労働省が従来から定義している待機児童数とは「保育所入所申込書が市区町村に提出されていること」・「入所要件に該当していること」・「実際に入所していないこと」という意味だ。実際には保育を希望していても、入園を諦めている場合は待機児童として認識されていない。厚生労働省によると、この認識されていない「潜在待機児童数」は、厚生労働省の推計では85万世帯分とされている。

潜在的不足数は300万人以上?

しかし、潜在的には都市部を中心に保育所に入れない待機児童数ははるかに多いと直感した。厚生労働省の呈示した数値は妥当かどうか。非常にざっくりとした単純計算ではあるが、以下で潜在的待機児童数を概算出してみたい。

厚生労働省の「家族類型別一般世帯数の調査」によれば保育を必要としている可能性がある世帯は、「夫婦と子どもの世帯」である385万1000世帯、「男親と子どもの世帯」である1万4000世帯、「女親と子どもの世帯」である21万7000世帯を合わせた408万2000世帯。女性の年齢階級別の労働力率は、「25~29歳」で77.1%、「45~49歳」で75.8%、平均約76.5%の女性が就業希望だと仮定する(平成22年度版:厚生労働省「働く女の実情」)。

すると、「夫婦と子どもの世帯」である385万1000世帯のうち、母親が働きたい確率は、女性の就業希望率76.5%を乗じた294万6000世帯と仮定できる。内閣府の調査によると、子育て世帯の妻の86%が何らかの形で働きたいと希望しているとのことなので、ここは平均値で考える。

これに一人親の世帯を足すと、317万7000世帯が保育サービスを必要としていることになる。子どもを持つ世帯の1世帯当たりの子どもの数は1.84人なので、317万7000世帯に584万5000人の子どもがいることになる。

保育所の総定員数は220万4000人分(平成22年4月現在)であるので、潜在待機児童数は、最大で、584万5000人-220万4000人=364万1000人(=197万8000世帯)となる。

つまり360万人以上の子どもが、親が保育所に入れたくても、入れられない状況にあるわけだ。以上の計算によって出された数値は概算であるが、政府の示す数字との間に大きな乖離がある。これはあまりに大きな差である。保育所に入れない子供は、過ごすことのできる時間が短い幼稚園に通い、家での子育て時間が増える。その結果、父母や祖父母が育児に拘束される。

完全な解決は無理、実態の把握を

では、この問題にはどのように向き合えばよいのか。まず前提として、政府は「潜在的待機児童」を把握すべきだ。いくら対策をしても、不満が消えないのは、この推計数の把握に問題があるためであろう。

仮に360万人分の不足があれば、簡単には待機児童問題は解決できない。特に保育枠の不足が目立つ都市部では、当面「誰もが保育の機会を自由に得られる」という形で、完全な解決にはいたらないと私は予想している。数万人分の保育所増設をしても意味がないのだ。

昨年決まった2015年までに段階的に行う消費増税案では、増税分の使い道として、「子ども政策」を取り上げている。少子化対策と関連づけ、「待機児童」も取り上げられて、「財政上の措置を講ずる」とされた。そして昨秋から始まった社会保障制度改革国民会議でも議論が行なわれている。しかし、その内実は曖昧であるし、大き過ぎる不足分は埋められないだろう。増設したら新たに申し込みが増える、という繰り返しが起こると見込まれる。

この問題では、主張が政治的な形になるのは、これまで難しい環境にあった。子どもが小学校に入学すれば、保育問題は就学児童の問題に変わる。何人も子どもが続けて産まれない限り、継続的に問題に直面する人は少ない。また保育事業者の意向が尊重されてきた過去の経緯があり、利用者の声が大きく反映されなかった。保育所の所管は厚生労働省、幼稚園と小学校は文部科学省と担当省庁が違い、継続的な行政が行われたとは言い難い事情もあった。

なぜ民間の力を活用しないのか

実態を把握した次に、どのような政策を打ち出すべきか。細かな現場の具体的なアイデアを考えることは大切であり、筆者も相当数の現場事業者と議論を重ねながら模索しているが、この論考では「国ができること」を考えたい。

国の政策で、保育は「子どもの安全・育児」のために規制色の強い形でつくられてきた。それを「民間企業も含めた多様な保育サービス事業者の参入で供給数を増やす」方向に変えるべきであると筆者は考えている。ここまでの需要不足を考えれば、規制緩和と優遇で、民間業者の参入は増える可能性が高い。

認可保育所の場合は、保育士の「質」の維持や安全の確保のための施設条件に関わる規制が相当ある。将来の少子高齢化の懸念から、行政は保育所の増設に慎重にならざるを得ない。

政策転換では、私立の認可外保育所、子どもを預かる「保育ママ」など、ある程度は「質」の水準を緩和してでも供給数を増やすことが必要だ。これまで行政は、認可保育所に限って、子どもを紹介したり、援助をしたりといった対策が多かった。これを止めて、地域のニーズに合わせ、自治体の裁量を増やす形で、増設を促す政策に移すべきである。

事業所内保育という仕組みにも、筆者は注目している。企業や病院などの事業所が職員の福利厚生のために、事業所に設置する託児施設での保育のことだ。雇用確保、遊休資産の活用、利益追求でない親に近い保育など、多くのメリットがある。
 
事業所内保育所の設置や運営に対しては、政府も従来から助成金による支援措置を講じてきている。しかし、実際にはあまり広がっているとはいえない。その要件が実態に合わなくなっているからだ。

国や自治体のルールには、この仕組みの活用の上で、「自社の従業員が半数は利用しなければならない」「一法人につき一度しか作ってはならない」など諸要件がある。中小企業が共同でつくるなど、柔軟な活用がしづらい状況になっている。

「安全」と「数」の合理的な利益の比較が必要

保育政策の変更については、既存の保育事業関係者や行政関係者が慎重である例が多いとされている。保育の「質」の低下を懸念するためだ。アベノミクスの財政出動、金融緩和に続く3本目の矢として期待される規制改革が内閣府の規制改革会議で議論されている。そこでも「働きやすい環境づくり」はテーマに設定されたが、「保育改革」をターゲットに絞ってはいない。

反対する人たちが、子どもたちのことを真剣に思い、民間事業者の参入を増やすことに懐疑的であるのは理解できる。だが一方で、保育サービスの不足という眼前にある現実の問題がある。一の懸念があっても十の利益が予想できれば、早急に政策転換をすべきである。

今、東京杉並区などで、保育所に預けられない母親たちが、デモをし、陳情に動き、行政や裁判所に救済を求める姿が報道されている。筆者は自分もかつて子育てで、仕事との両立で負担を引き受けた。その報道を見て胸が痛み、共感を抱く。多くの父母と子どもをぜひとも助けたいと願う。

今、孫への贈与がしやすくなるための税制優遇策が注目されている。これはこれで歓迎されるべきだ。ただ、より合理的かつ広範囲に社会的恩恵を広げる策がある。それが保育サービス政策だ。それは、単に待機児童問題を解決する福祉政策として捉えるのではなく、人口と資産が多い高齢層から、これからますます人口が減少していく子育て層に、税金という公的財源を合理的にバウチャーしていく、唯一と言っても良い経済政策として捉えるべきものだ。

もちろん保育は複合的な問題で、地域社会、自治体それぞれの対策も必要だ。しかし、問題の根源の一部は保育に関する制度それ自体にある。正確な状況の把握、その上での民間の力を活用する保育サービス事業環境の整備に向けた規制・制度改革を、安倍政権は最重要政策の一つとして打ち出してほしい。

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