今日の小峰隆夫さんの記事に関連して、インターネットを検索していたら、経済産業研究所(RIETI)の森川正之さんのコラム「円高と日本の国際競争力-『過度な円高』について-」を発見した。半年ほど前の記事だが、とても興味深い内容だった。
この森川コラムでは、2011年夏頃から12年秋頃までの円レートの水準は、実質実効為替レート(注)でみると円高ではなかったといわれるが、「為替レートが『円高』かどうかは、過去の水準との比較だけでなく『均衡為替レート』との関係で評価する必要がある」という真っ当な指摘がなされている。そして、「実質為替レートは交易条件(輸出価格/輸入価格)と密接な関係がある」ことから、「交易条件は、実質為替レートの国際競争力から見た均衡水準との乖離を判断する1つの目安」になるとして、実質実効為替レートと交易条件を比較している。その結果、リーマンショック以降は両者の乖離が著しくなっていることが確認される。
(注)円に対してドルといった特定の通貨とのレートだけではなく、他の複数通貨とのレートを貿易額等をウェイトに加重平均してみた上で、各国の物価(あるいは単位労働コスト)の変化を考慮して指数化したもの。数字が大きいほど円高で、数字が小さいほど円安。
森川さんのコラムは、約半年前のものなので、その後の半年分のデータも加えてグラフにしたものが以下の図である。
交易条件の悪化の原因の1つが、日本の輸出財産業の国際競争力の低下であるとすれば、日本経済の実力が落ちてきているので、昔と同じ実質レートであっても「円高」に感じるという話である。この限りで、「円高に対する産業界や政策実務の見方が的外れではない」というわけである。
なお、森川さんは、コラムの中で「ただし、円レートの大幅な不均衡が現に存在するとすれば、政策とは関係なく円レートの急激な減価がいずれかの時点で生じる可能性も否定できない。」と記しているが、実際に(安倍政権の登場する前の)12年の11月頃から円高是正の動きが進行するようになっている。この意味で、先見の明があった記述だといえる。円高是正が進んだ結果、実質実効為替レートと交易条件の乖離はだいぶ縮小してきているが、まだ乖離は残されているという感じである。
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池尾 和人@kazikeo