アメリカ版失敗の本質

田村 耕太郎

失敗の本質で有名になった”戦力の逐次投入”というまずい戦略。これは日本軍の専売特許のように言われているが、洋の東西を問わず、世界のリーダーが採用して失敗してしまうものでもある。オバマの外交戦略がいい例だ。今回から何度かに渡り、これから大きくツケを払わされるであろうオバマ外交戦略について取り上げたい。

皆さんは中東の地図をご覧になったことがあるだろうか?これを見ればシリア情勢がいかにまずいことかわかるだろう。もちろん、日本も無傷ではいられない。

中東地図


シリアはイラク、トルコ、レバノン、イスラエル、ヨルダンという5か国の国境に隣接。これらの国々に難民が殺到している。トルコではシリア国境付近で爆弾テロが起こっている。難民の中には大量破壊兵器の運搬者もいるとみられ、これが先日のイスラエルによるシリア空爆につながった。

アメリカは不本意ながらもシリア情勢に介入を深めていくようだ。アメリカはシリア介入は先が見えない選択肢であることは認識しているが、イスラエル等シリア近隣の同盟国のことを考えれば、今のように見て見ぬふりをしている選択肢よりはましだと判断したようだ。アメリカはオバマ就任後の、「危機が本質的になるまで、いつでも撤退できる逐次投入ですませ、本当の危機になってから介入する」という優柔不断な外交政策のツケが一気にまわってくる。

これは非常にまずい。悪化するシリアの内戦は近隣のイスラム諸国に宗派対立の激化という副産物をもたらし始めている。アメリカの介入はアメリカ自身が認識しているように宗派対立の激化は中東をさらに不安定化させる。

シリアは特殊な国家で国内で大多数を占めるスンニ派(75%)をマイノリティー勢力であるスンニー派のそのまた支流であるアラウィー派(12%)が秘密警察や軍を使って抑え込んでいる。世界的に見てもスンニー派(9割)シーア派(1割)である。世界的にマイノリティーであるシーア派が人口比率で優勢なのは、シリアが隣接するイラクやそのとなりのイランである。

イランとシリアのアサド政権が盟友関係にあることが今後シリア情勢ひいては中東全体の状況を悪化させるきっかけになる。これがアメリカのシリア介入を正当化させる理由の一つになる。イランの台頭を抑え、イスラエルを守る意味で、アメリカの介入は深まるのだ。

影に日向にシリア現政権を支持してきたロシアも態度を変える可能性が出てきた。ロシアには、ボストンでのテロをきっかけに、苦労している北コーカサス地方での紛争でアメリカの支援を受けられる見通しが出てきたからだ。ロシアも北コーカサス紛争とシリア支援を天秤にかけて、アメリカに協力しそうになってきた。

問題はシリアの現政権を倒した後のビジョンが全く見えないこと。どう転んでも破たん国家になるしかないのだ。シリアの反政府勢力には国家を運営する力はない。今更アサドが元の状態に戻せるわけでもない。シリアを無政府状態にしてしまえば、イエメン並みにテロ組織の巣窟化するかもしれない。アメリカはさすがに、再び無政府状況に陥りそうなイラクの現状から、シリアの行き先を察知している。しかし、それでもいまから介入するしかないのだ。

アメリカの介入とアサド政権の崩壊が視野に入ってきた。それは中東の重要な5か国に隣接するシリアを無政府化し、イスラム世界の宗派対立を悪化させる。「逐次投入の本家」日本もただではすまない。

なぜアメリカ外交が逐次投入になってきた。それを次回考えたい。

この記事は田村耕太郎のブログからの引用です