真の国際競争力を生み出すイノベーションとは --- 河原 ノリエ

2013年05月15日 13:10

■アジアのがんに関する学際的プログラム

アジアのがんという一つの事象に注目し、それを通して見えてくるアジアが抱える今日的課題についての学際的な学びの場を、東京大学の全学横断型プログラムの一環として講義をはじめて、この春で3年目になる。学生も、医学のみならず、様々な領域のバックグランドをもつ学生が集まってきている。


今期のテーマは「人類の進歩にとってがんはどんな意味をもっているのか。」である。「正解のない問いである人類の難問としてのがんへの自らの問いを立てることは、混沌としたアジアの現実と向き合う対話の回路をもつことである」という、抽象度の高いテーマを投げた。

学生たちは、毎回それぞれのバックグラウンドの中から自らの問いをたてて、様々な領域の専門家たちと議論を重ねている。こうした大学という場所の学びが、社会を構成する視点の広がりにつながっていくことを願っている。

■アベノミクスと医療の産業化、国際競争力強化

6月に発表されるという安倍政権の成長戦略の中では、医療の国際競争力の強化が中心課題のひとつになるとの報道がなされている。

経済発展目覚ましいアジア市場を見据えて、医療の産業化、国際競争力強化が叫ばれているのだ。

日本は、世界的にみても高水準の医学研究と医療の質を持ちながら、医療産業は十分な国際競争力を持っていない。それゆえ医薬品や医療機器などの輸入超過が続き、約3兆円もの貿易赤字になっている。その理由としては、医薬品・医療機器の承認プロセスの問題や法人税の高さ、治験実施が容易な巨大な施設がないこと等が挙げられる。企業に日本での医薬品・医療機器等の研究開発を敬遠させるような様々な要因が、医療の産業化を阻んできたとされている。

そのような状況を打破し、日本がアドバンテージを持つ領域として先端医療技術のがん治療領域をアジア諸国に売り込むことも、医療分野における成長戦略の一環として注目を浴びている。

■真の国際競争力の獲得のために

こうした流れはアジアのがん連携を進めようと考えてきた我々にとっても、大きな期待を抱かせる方向性である。しかし、アジア社会全体の動向を見据えて、本当に実効性のあるグランドデザインを描けるような構想力を持ちうるのだろうか。

次世代を切り拓くキーワードとしてイノベーションという言葉が乱舞している。だが、この言葉は、サイエンスの強化や規制の緩和や司令塔の設立だけで実現するものではないとおもう。イノベーションとは、互いに全く関係のない事象でも、受け手の考え方や意識、その場の感覚で、新しい展開をみせるものである。

実証的なデータが体系的に集められてこなかったアジアにおいて、これまで掘り起こされてこなかったアジア地域の事実や概念比較のための軸などが、異分野の出会いによって、発見される。これが、学問のイノベーションとも言うべき、新しい視点である。アジアの地域研究などが繋いできた視線の高さ、普遍的な人間存在への洞察の智慧などが、閉塞状況の突破口にもなりうるはずだ。

前のめりになりがちな昨今のアベノミクス視点も結構だが、真の国際競争力の獲得のためにはどんな智慧が必要か、少し立ち止まって考えてみたらどうだろうか。

河原 ノリエ
東京大学 先端科学技術センター 総合癌研究国際戦略推進講座 特任助教


編集部より:この記事は「先見創意の会」2013年5月14日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった先見創意の会様に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は先見創意の会コラムをご覧ください。

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