弁護士らの生活保護法改正批判は、決めつけが過ぎる --- 鈴木 亘

2013年05月27日 21:42

先日、政府が閣議決定し、国会に提出した生活保護法の一部改正案に反対する声が高まっています。既に、弁護士を中心とした生活保護問題対策全国会議が、この法案の廃案を呼び掛ける激しい運動を、全国で起こしているほか、

生活保護問題対策全国会議 「違法な『水際作戦』を合法化し、親族の扶養を事実上生活保護の要件とする『生活保護法改正法案』の撤回・廃案を求める緊急声明」および関連資料

生活保護問題対策全国会議 〈チラシ〉『生活保護法を改正しても申請手続は今までと同じ』という厚労省の虚言


生活保護受給者支援の運動家や、専門家と称している人々からも、もっぱら反対の主張ばかりが行われています。

ダイヤモンド・オンライン「事実上、利用できない制度へと変わる!? 生活保護法「改正」案の驚くべき内容 」

「水際作戦」を合法化させる生活保護法「改正」法案(稲葉剛)

しかし、筆者は今回の改正内容の多くはむしろ妥当なものであり、ひところの生活保護制度への批判の盛り上がり(特に、自民党の一部の強硬な批判)にも関わらず、よくこの程度の現実的な改正ですんだものだと考えています。また、まさにこの生活保護法改正とペアで提出されている「生活困窮者支援法」の画期的な内容を合わせて考えれば、むしろ、生活保護政策はずいぶんとまともな方向に進んでいるという印象を持っています。

反対の声を挙げている弁護士や運動家の心配も分からなくもありませんが、かれらの意見(たとえば、今回の法案は水際作戦の合法化だ、扶養義務の実質要件化だ等)は明らかに「決めつけが過ぎる」と思います。そうした声ばかりが、マスコミでフォーカスされるのは明らかにバランスを欠いていますから、必ずしも反対ではない専門家の意見があることを、報告しておきたいと思います。

今回、法案の廃案を求める運動家たちが批判をしている点は、1. 「水際作戦」の実質的合法化、2. 親族による扶養義務の強化、3. 調査権限の強化の3点です。これらに対する筆者の意見は、下記の通りです。

1. 「水際作戦」の実質的合法化……今まで慣例として口頭で申請することが許されていたものを、今後は、原則として書面で申請することとなりました。しかし、これはむしろ、これまでが行き過ぎだったのであり、書面で申請するとしたことは、私は正常なことだと思います。もちろん、中には文章が書けない人もいますから、聞き取りによる代筆を可能にするべきですが、これは、既に厚労省はそういう運用をすると宣言をしています。

したがって、「水際作戦の合法化」とまで言うのは、やや決めつけが過ぎると思います。ただ、もちろん、一部の行き過ぎた自治体によっては、そうした運用をする可能性もありますから、厚労省が「これまで通りの運用にする」という通達を全国に出すと言うことがよいと思います。実際、口頭の申請を許すという点も、もともと法律に書いてあったわけでは無く、運用として許されてきたに過ぎませんので、書面で申請と生活保護法に書こうが書くまいが実質的には大きな違いはないはずです。これまで通り、運用が重要なのです。

おそらく、この条文は、極めて政治的な配慮で、つまり、対自民党対策として入った条文なのではないかと思います。「最近は、口で申請すると言えば、簡単に申請ができる仕組みがあり、それが生活保護の濫給を生んでいる」という批判が自民党の一部でずいぶんありましたので、厚労省はその声を反映させざるを得なかったのだと思います。しかし、繰り返しになりますが、何事も、これまで通り、運用次第なのです。

2. 親族による扶養義務の強化……これは現行の民法を考えれば、当然のことだと思います。もちろん、生活保護の個人化はずいぶん前から議論されていますし、筆者としては、そういうことがあっても良いとは思うのですが、生活保護法の背景にある民法の方が扶養義務を規定している以上(生活保護法では民法の規定に倣うとしている)、民法を変えない限りは、親族に扶養義務を求めることは仕方がないと思います。

注意すべきは、今回も、扶養義務は、生活保護の要件(条件)にはなっていないと言うことです。単に、扶養者に対して照会が行くと言うことを、明文化したということですから、これは厚労省の言うように、これまでの運用を文章にしたと言うことなのだと思います。自民党の一部は、明らかに要件化を求めていましたので、厚労省の判断は現実的で、むしろ妥当だと思います。

これも、厚労省の言うように、これまでと同じ運用がなされるということなのだと思います。生活保護受給者を扶養することによって、その親族の生活の維持が難しくなるようなケースでは、これまで同様、扶養義務が課されることはありません。また、これまでも、扶養者への通知は行っていたのですから、運動家たちが「今回の改正によって、貧困者が生活保護の申請をより躊躇するようになる」と批判している点は、論理的ではありません。

3. 調査権限の強化……これは、まったく当然のことであり、批判には当たらないと思います。個人情報保護法ができて以来、福祉事務所からの預貯金の照会に、銀行が断ってくるというケースも現場では増えています。資産調査がスムーズに遂行されるために、また、不正受給を防ぐために、この改正は不可欠であると思います。また、ひところ批判されたお笑い芸人のような悪質なケースを防ぐためにも、扶養者に対しても資産、所得調査ができるようにすべきであり、今回の改正は当然のことだと思います。

ただ、どの程度の資産、所得を持っている場合に、扶養義務を求めるかということは、厚生労働省は、「ガイドライン」によって目安を作るべきかと思います。そうしないと、これまで同様に、貧困な親兄弟に迷惑がかかるからと生活保護の申請を出し渋るということが起きかねません。扶養者の生活の維持が難しくなるケースでは、これまで同様、扶養義務が課されることはないということを、目安の金額として明文化した通知を、厚労省は今回の改正に合わせて、出すべきだと思います。むしろそうしたガイドラインを明文化した方が、貧困な親族に気兼ねすることを防ぐことができるので、現行のいい加減な裁量制の制度より望ましいと考えます。

いずれにせよ、今回の法改正は、自民党対策という面が強いと思います。一見、辛口の味付けをしたように見えますが、その内容は運用次第で、今までの甘口も可能なものになっているのです。社会援護局の苦労の跡は随所に散見されます。厚労省が運用面で今までと変わらないように配慮するというのであれば、通達という担保を出させるのが現実的でしょう。

また、もうひとつ重要な点は、今回の生活保護法の改正案は、生活困窮者支援法とセットであるということです。内容的にも補完し合うものであるし、政治的にも二つは合わせ技のセットで進んでいます。一方を廃案にして、一方だけを通すことなど、政治的に不可能です。セットとして考えれば、今回の生活保護改革は決して悪いものではないと筆者は考えます。廃案を求める運動が大局的に正しいのか、現実的なのか、考えてみる必要があるでしょう。


編集部より:この記事は「学習院大学教授・鈴木亘のブログ(社会保障改革の経済学)」2013年5月23日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった鈴木氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は学習院大学教授・鈴木亘のブログ(社会保障改革の経済学)をご覧ください。

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