厚生年金基金廃止論に隠された厚生年金本体の闇

2013年06月04日 09:25

厚生年金基金が代行している給付債務は、厚生年金本体の給付債務に比較すれば、その小さな一部を構成するにすぎない。相対的に小さな問題である厚生年金基金の財政問題を大きく取り上げることで、結果的に、圧倒的に大きな問題である厚生年金本体の財政問題から国民の関心は逸らされている。


厚生年金本体は、その給付債務と積立資産額とを比較したときには、完全積立など実現できてはいない。そもそも、積立資産額があるとはいっても、事実上の賦課方式の導入が行われているのであるから、給付債務に見合うだけの資産の裏付けはないのである。

厚生年金基金のほうは、完全積立を前提にして、債務額との比較において資産額の管理が行われている。だからこそ、積立不足が問題になるのである。しかも、積立不足とはいっても、厚生年金基金には、明確な資産の裏付けがある。その意味では、基金のほうが健全で安全ともいえるのである。

その厚生年金基金を廃止して厚生年金本体へ統合すれば、基金の資産は国庫へ収納されて、原資が不足する厚生年金本体の給付へ充当される。厚生年金本体の問題から国民の関心を逸らせるだけでなく、基金資産という隠れ財源をも確保できる。ここに、政策の出鱈目さと巧妙さがある。厚生労働省の責任回避と巧妙な技巧以外のなにものでもないのだ。

要は、民間部門として運営されてきた厚生年金基金には、民間部門としての優れた面があるのだが、その優れた比較対象を消し去れば、厚生年金本体の問題は目立たなくなるということだ。これが厚生労働省の狙いである。厚生年金基金は民間部門に属する。だからこそ、厳しく積立水準が規制されてきたのであり、厳しく管理されてきたからこそ、積立不足という事態が白日のもとに明瞭に出てきたのだ。民間部門の厳格な管理の結果出てきた問題をあげつらい、公的部門の管理すらされていない問題を隠そうとするのは、不当である。

厚生労働省としては、厚生年金基金廃止のような小さな提言する前に、はるかに大きく深刻な課題がある。厚生年金本体の財政の危機を国民の説明し、その対策を講じることである。そして、厚生年金本体の資産運用について、抜本的な改革を行うことである。厚生年金基金の犠牲のもとに、その本質的課題を隠蔽して先送ることは、どうしても認めがたいのだ。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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