国破れて生活あり、生活あれば投資あり

2013年07月16日 09:00

国破れて山河あり、だったかもしれない。しかし、山河は食えない。自分の属する国が破れても、人間は食べて生きていかなくてはならない。国家は国民の生活のためにある。国家の存続のために国民があるのではない。国が破れても人は生きる。


特定の国がどうということではない。可能性としては、どこの国でも、財政破綻はあり得る。国は破れ得るのだ。財政破綻が具体的に何を意味するのかは、必ずしも明確ではない。しかし、国債や通貨の価値が著しく低くなるというようなことはあり得るにしても、国民の生存を脅かすような危機、生命の危機に至るとまでは、想定し得ないのではないか。財政の危機は、金融と経済の危機につながり、国民生活は苦しくなるのかもしれないが、それでも、国民の生活はあり、あり続ける。

国破れても、国民生活がある限り、国民生活に密着した経済活動と、それに関連した金融機能は、あり続ける。国民の存亡は、国家の存亡とは異なり、ましてや国家財政の危機とは次元が違う。

30年以上も昔、サッチャー政権の下で、ロンドンのユーロボンド市場が生まれた。当時の基本的な構図は、オイルダラー等の累積により米国外に流出したドルを、ロンドンを経由して還流させるような仕組みだったのだと思う。ゆえに、有力な発行体を形成したのは、米国の大企業群であった。一方、投資家は、スイスの銀行等に集積されていたオイルダラー等(その他、多様なお金が世界中からロンドンに集まったのだと思うが、私には、資金の背景は未だによくわからない。ただ、日本の金融機関も、その一部を形成したのは間違いない)だったのだと思う。

ロンドン起債市場の創出に大きな功績のあった投資銀行クレディスイスファーストボストンが、スイスの有力銀行クレディスイスと、当時の米国の有力投資銀行ファーストボストンの合弁だったのは、偶然ではない。米国の発行体とスイスの投資家、そんな組み合わせだったのである。ここは、サッチャー政権のすごいところである。自国の金融機関を優遇しようなどとは、少しも考えなかったのである。

さて、その米国の発行体であるが、生活に密着した必需品で、ブランドが世界的に知られているような製品を持つ巨大企業が、特に人気が高かった。各国政府や政府機関が発行する債券に劣らず、というか、それよりも、米国の有名一流企業の社債のほうが、人気があったのである。

1980年といえば、先立つ長い戦争の時代を考えれば、欧州に政治的安定が実現してから、間もない時期ともいえる。その当時、国破れることは、ごく最近まで、普通のことであったのだ。そうだからこそ、特定の国が破れても影響を小さくできる多国籍企業で、しかも、生活必需品の製造業者のほうが、信用があったとしても不思議ではない。

それから30年以上たち、現在の金融は、グローバル資本市場を中軸に据えたものに変貌している。そうした資本市場の成長は、世界的な政治の安定抜きには考えられない。ところが、今改めて、国破れる可能性が懸念されている。いわゆるソブリンリスクの顕在化だ。

しかし、仮に、どこかの国の国債や通貨が暴落するような状況でも、その国のグローバルに展開している企業が受ける影響は、限定的なのではないか。なぜなら、グローバル企業は、資金調達、生産、販売など、全ての分野で、グローバルな経営リスクの分散が図られているからである。このような、国家と多国籍企業との本質的な差は重要である。

要は、政治に関する問題は、科学的な議論の土俵には載りにくく、合理的に議論できることは、産業に関することだけなのだ。もしも、政治に関するリスクが顕在化してくるならば、そのリスクに対処する方法は、端的に避けることしかない。一方、生活があれば産業がある。産業があれば産業金融がある。産業金融があれば投資はある。そして、原点の生活に近ければ近いほど、投資の安全性は高いのではないのか。

実物資産への投資というのも、同じ論理である。実物という目に見えるものに裏付けられたキャッシュフローへの投資には、国の借用証文とは違う確かさが感じられる。実は、国債には担保がない。一方、例えばインフラストラクチャ投資などは、明らかに、財政の負担力の低下を背景にし、国債ではなくて、その背景にある公的インフラストラクチャ資産の直接取得へ向かうものだから、論理的な構図としては、国債に担保を付けるようなものだ。

そうすることで、実は、投資家は、「国家のリスク」を回避することができる。管理し得ない国家のリスクを回避しようと努力する方向のなかに、生活・事業・産業への投資という、「投資の原点」への回帰の思想がある。インフラストラクチャは、他の何よりも、生活に密着しているのだ。

国破れて生活あり、インフラあり。投資が資産の生み出すキャッシュフローへの投資であるなら、投資の原点への回帰は、キャッシュフロー源泉への遡及ということになる。国家の危機のなかで国債投資が危機に瀕しても、国家を経由しない投資は、より安全であり得るであろう。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
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