中東の「戦争と平和」 --- 長谷川 良

2013年08月31日 10:03

米国は、化学兵器を使用したシリアのアサド政権への制裁として限定的な軍事攻撃を開始する意向といわれる。そこでシリア情勢を理解するために、欧米諸国の反応とロシアの狙い、軍事行動による中東地域への影響などをまとめてみた。

アサド政権が8月21日、首都ダマスカス郊外で化学兵器を使用し、子供を含む数百人が犠牲となった。その遺体の写真は世界に大きな衝撃を投げかけた。「化学兵器使用はレッドライン(超えてはならない一線)だ」と警告してきたオバマ米政権は軍事制裁に乗り出さなけれならなくなった。


ロシア側は「アサド政権の化学兵器使用説には不可解な点が多い」として、反体制派グループの使用すら示唆している。それに対し、「化学兵器の使用命令を下したのはアサド大統領ではなく、大統領の弟、ダマスカス防衛責任の第4師団の、マーヘル・アサド(Maher al Assads)司令官だ」という情報が流れている。

オバマ政権は国連化学兵器調査団の分析結果を待って軍事攻撃の是非を決定すると表明してきたが、実際は「米国とイスラエル両国は、8月21日の化学兵器使用直後、調査済みで、アサド政権が使用したことを知っていた。しかし、軍事攻撃を出来るだけ回避したいオバマ政権は他の欧米諸国やロシアの出方を伺っていた」という情報がある。オバマ政権にとっては、イラク、アフガニスタンの戦地からようやく米軍撤退が実現した直後、新たなフロントを開きたくない、というのが本音だろう。しかし、フランスら欧州諸国からもアサド政権への制裁要求の声が高まるに至って、オバマ政権はシリアへの軍事行動をもはや回避できなくなったわけだ。

アサド大統領は「米国がわが国を攻撃したら、大きな代価を支払わなければならなくなるだろう」と表明。シリアと密接な関係を持つイランの最高指導者ハメイ二師も「シリアへの軍事攻撃は中東全域に取り返しがつかない混乱をもたらす」と警告している。

米軍らの軍事攻勢が始まれば、どのような影響と反応が出てくるかを考えてみたい。シリアは少数派アラウィー派が支配しているが、アラウィー派はシーア派から派生した宗派で、シーア派国のイランとは伝統的に関係が深い。だから、シリアが攻撃された場合、イランがさまざまなルートを駆使してシリア支援に乗り出すことは必至だ。テヘランは今日、シリアに武器、食料などを提供している。

戦争が勃発すれば、イラン側の意向を組んで、レバノンのヒスボラ(シーア派イスラム主義武装組織)が動き出し、必要ならば宿敵イスラエルにミサイルを撃ち込むだろう。シリア戦争が起きれば、イスラエルは否応なく紛争に巻き込まれる恐れが出てくるわけだ。イスラエルはヒスボラに当然反撃するだろう。イランも静観していない。一方、トルコにはクルド系難民が殺到し、最大少数民族クルド人を国内に抱えるトルコの政情も不安定となる。アラブの盟主サウジアラビアはこの機会にアサド政権の崩壊を画策し、豊富な資金を反体制派に流していることは周知の事実だ。

これまでアサド政権を支援してきたロシアはどのような動きを見せるだろうか。米国は地中海に巡航ミサイル搭載の軍駆逐艦4隻を派遣済みだが、インタファクス通信によると、ロシアは数日内に地対潜艦とミサイル巡洋艦の2隻を派遣すると表明し、米国をけん制している。リビアを失った現在、ロシアにとってシリアは唯一の中東での同盟国だ。シリアはロシア製武器の最大の買い手という事実がある。シリアを失えば、ロシアは中東での拠点を完全に失うため、アサド政権の維持に腐心する。しかし、国連安保理で拒否権を行使しても、米国は制裁を中止する考えはない。化学兵器使用がアサド政権によると判明した場合、ロシアとしてはアサド政権をあからさまに支援できなくなる。いずれにしても、プーチン大統領が対シリアで切ることができるカードは限られている。もちろん、ロシアは米国と正面衝突する考えはないはずだ。ソチ冬季五輪大会の開催を来年に控えている。シリア問題で深入りして怪我でもすれば、米国ら欧米諸国の参加ボイコットも考えられる。ロシアはそのようなリスクを払う考えはないだろう。

米軍らの対シリア攻撃が短期間で終了するかは不明だ。ワシントンが願っているように迅速に解決できる保証はない。ましてや、アサド政権崩壊後のシナリオはまったく描くことができない状況だ。

興味深いことは、エジプトで軍とムスリム同胞団過激派間の衝突が急速に収まった直後、しばらく静まっていたシリアの内戦が激化したことだ。その背後に、同胞団内のイスラム過激派がエジプトからシリアにフロントを移動させた兆候が見られる。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年8月31日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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