「稼働ゼロ」になった原発を政府は放置するのか

池田 信夫

関西電力の大飯原発4号機が今夜、定期検査のために停止し、ふたたび日本の原発は「稼働ゼロ」になる。朝日新聞は、うれしそうに「原発稼働ゼロずっと続いて」という集会を報じているが、こういう状態が続くと被害を受けるのは、当の電力利用者である。

料金


図のように、2011年の震災以来、家庭用の電気代は全国平均で15%上がり、特に東電は28%も上がった。しかしこの料金は柏崎を動かすという前提で値上げ幅を圧縮したもので、再稼働できないとさらに8.5%値上げされる見通しだ。この結果、東電管内の標準家庭の電気代は、年間10万円(消費税2%分)を超える。産業用は自由に値上げできるので、この2倍ぐらいの値上げ率になっており、製造業は日本を出て行くだろう。

ところが政府は、新しいエネルギー基本計画で原発比率を明示しない方針だという。その理由が「再稼働のスケジュールが見通せないから」というのだが、これは本末転倒だ。全国の原発はすべて定期検査を終え、ほとんどがストレステストも終えているので、経産省が届け出を受理すればいつでも再稼働できる。スケジュールは政府が決めることができるのだ。

安倍政権が「世界最高水準の安全をめざす」というのは結構だが、そのために既存の原発を止める必要はない。たとえば高速道路の安全設備を増強するときは、なるべく利用者に迷惑がかからないように工事をするのが常識だ。したがって原子力規制委員会の安全審査と既存の原発の再稼働は並行してできるのだ。

規制委の田中委員長も「われわれは再稼働を審査する立場にはない」といっている。なぜなら再稼働の審査という手続きは存在しないからだ。電気料金審査専門委員会の安念委員長(中央大法学部教授)も指摘するように、「電力会社が原発を再稼働させるのは完全に適法。規制委員会に再稼働についての審査権はありません。電力各社はただちに再稼働していい」。

エネルギー基本計画を見直すにあたって、地球温暖化や大気汚染の防止の観点から化石燃料の消費を抑制することが求められている。再生可能エネルギーは、ドイツなどの例をみても明らかなように代替エネルギーにはならない。ドイツではフランスから原発による電力を輸入し、再エネのバックアップのために石炭火力を増やし、電気料金は大幅に上がった。

円安の効果もあって、日本の電気代は(原発ゼロにした)イタリアに次いで世界第2位になった。このままでは「アベノミクス」効果も帳消しだ。特に製造業はすでに日本に新しいプラントを建てない負の退出効果が顕著に出ており、これが日本経済を衰退させる原因になっている。消費税よりも、こうした実体経済のダメージを減らすことが安倍政権の最優先の課題である。