デジタル教科書反対! その1 --- 中村 伊知哉

アゴラ

「1人1年1万円でデジタル教科書を」
デジタル教科書運動が次のステージに入りました。
 http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2013/08/blog-post_29.html

というブログをアップしたところ、改めて異論・反論が来ました。


3年前、デジタル教科書・教材協議会(DiTT)を立ち上げたころ、ずいぶん批判も浴び、議論し、対応したものですが、しばらく止んでいたと思ったところ、具体的なコストイメージが登場したからでありましょう、また同様の議論がぶり返してきました。

もう場面が変わっていて、特に海外に後れをとっている日本は政府決定もなされ、議論の段階でなく実行の段階であり、逆にデジタル教育反対者にはこちらから質問することにした(下記の2記事)のですが、これらに対する回答はなく、またも質問を浴びる格好であります。

 デジタル教科書は第2ステージに
 http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2013/01/2.html

 デジタル教育反対派への10の質問
 http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2013/03/10.html

だが仕方ありません。しばしツイッターで対応していたのですが、分量が多くなってしまい、「まとめろ」の声も浴びたので、このとおりまとめます。
(今週は毎日、この件をアップしていきますね。)

ぼくの回答が正しいかどうか、それはみなさんがご判断ください。

前段がツイッターでいただいたコメント、>から後がぼくの回答。

デジタル教科書の使い方を現在研究中なのに、デジタル教科書を小・中学生に一人一台まず導入というデジタル教科書推進派の意見は理解不能
>紙の教科書の使い方はまだ研究途上ですがみんな使ってますよ。

効果的な学習法も確立していないのに、デジタル教科書を本格導入するのは現場が混乱するだけ。
>未だITの効果が確定していないPCやネットを会社に導入した経営者は現場を混乱させただけなんですかね。

検証のためのデジタル教科書学会は昨年設立されたばかりですよね。
>参加している先生方はまともだと思います。ほぼ全ての社会人がデジタル仕事に移行した現在も紙に固執する先生方はどう考えてるんでしょう。
>日本の学校は生徒7人にPC1台。教育情報化反対派は導入が拙速というが、であれば来年にも一人一台を達成する韓国やシンガポール、今年一年生全員に配ったタイは大変なことになるのでは。課題は日本と同じはず。警告されるとよい。

「導入反対」ではなく、「適切な導入」が求められているだけでは?
>私も適切な導入を求めています。海外に比べ日本の導入が遅れているのが「適切」かどうかの判断かと思います。

デジタルで集中できるというのは見せかけでしょう。ゲームやドリルでは
>あ、ドリル的に捉える点でデジタル化のイメージが全く異なります。ドリルさせるなら紙で結構。置き換えではありません。

学校に端末を置いておくのなら、端末室で、デジタル授業をすればよい。それなら10人に一台でも十分。
>それこそ紙とデジタルが共存して「はい、じゃこれはネットで見てみて」って機動的な授業をイメージされてます?なぜ十分なんでしょう。

少ない予算だからこそ厳選が必要です。きちんとした実証実験で効果を確かめらるべきでしょう。
>だから日本含め各国で実証が行われ、推進されているわけで、いつまでどこまで検証すべきかの判断の問題でしょう。

マルチスクリーンは子どもたちの注意力を散漫にします。与える情報は少なくした方が学習効果は高いのです
>それをこそ実証していただけると、生産的な議論になると思います。デジタルを活用した授業の方法も改善されましょう。

使わないメリットは、授業に集中できること、無駄な財政支出をしなくてすむこと 紙の教科書との併用は避けられないので、重い端末を持って歩く必要がないこと、教員の研修がいらないこと。等々多数
>授業に集中できること:日本の教育の最大課題は海外に比べ子どもが「授業を面白いとも役立つとも思っていない」比率が圧倒的に高いこと。デジタルで集中できるよう授業を改善するのが重要な目的。
>無駄な財政支出をしなくてすむこと:日本は教育への公的支出がOECD最下位。子どもたちへの投資をこそ拡充すべき。それが無駄かどうかは政策判断。道路予算に比べれば安い。
>重い端末を持って歩く必要がないこと:であれば本か端末を学校に置いておけばよい。カリフォルニアや台湾の教育情報化の第一目的はカバンを軽くすることでした。
>教員の研修がいらないこと:この時代に教員の情報化研修がいらないことがなぜメリットなのかわかりません。

デジタル教科書が論理性を失わせる危険がないか、きちんと検証する必要がある
>危険があることをまず立証してもらいたい。さすれば必要が生じます。

ここのところの大学における、数学の学力低下は、ひどいものがあるわけです。そこに影響があると非常に困るわけです
>それはたぶんデジタルのせいじゃないから別の検証をしてほしい。

単純な疑問なんですが、小学生だとタブレット落として壊したりする仔が続出とかならないんですか?大人でもよくiPhone割っちゃいますし。
>学校に導入した事例では、みんな大事にしてほとんど壊さないそうです。

タブレット導入で威勢だけ良い武雄市の樋渡市長も国の補助金頼みですよね?
>熱心な自治体は自主財源を軸にしています。既に自治体に付与されている交付金をきちんと使えば遂行できます。要は首長のやる気の問題。
>幼児向けタブレット玩具が出回り、親がお古のタブレットを幼児に渡すようになり、そうすれば今の子が小学校に上がるころにはデジタルの達人になってます。小学生に情報端末を渡すかどうか、議論している暇はもうないと思います。

自己矛盾、みんなタブレット持っているのだったら、小学生にタブレット配ることはない。 アプリを入れるだけ。 
>そうですよ? 韓国はもうそういう方針に転換してます。

そんなに小学生が入学前からデジタルの達人になっているのだったら、学校で教えることはない。
>そのとおり。学校で使い方を教えることはなくなります。使うだけの話です。

紙の教科書にはデジタルにないメリットがあることは確実である以上、それを使う時間が減るというのは、紙の教科書のメリットが十分に生かせないということで、これは明らかな弊害ですね
>面白い。紙によってデジタルのメリットを活かす時間が使えない弊害はないのか。

日本政府も実証実験をと言っている訳ですよね。
>はい、政府は20の学校で実証実験を行い、われわれDiTTも13の実験を進めています。政府は次年度大幅拡充の予算要求をしていますが、ぼくはそれでも不足と考えます。実証実験を行い「つつ」導入を急ぐというのが政府方針で、いくつかの自治体が一人一台に踏み出そうとしているのが現状。公的資金による実証はあと10年ぐらい必要ではないかと思いますが、本格導入もまた急ぐべきでしょう。どんな授業や学習が子どもたちにとってよいものか、その研究はアナログでも100年以上続けられ、未だ理想型ができていないように、デジタルでも100年以上続くことでしょう。ではどこで本格導入に踏み込むか。その政策判断です。

デジタル教科書推進派が、こういった懸念に応えるべきであり、「使わせないのがよいことを検証」する義務が反対派にあるというのは誤りですね。現状の変更を申し立てているのは推進派なのですから。
>これはもう場面が変わったんです。OECD及び各国とも推進を決定し、日本政府も閣議決定していることに「反対」とおっしゃっているので、もうそちら側が論証する段階になりましたよと申し上げているのです。ぼくも場面が変わったんで反対側に検証をと申し上げている次第。
>理数系学会などがデジタル教育に懸念を示しているのは知っていますが、日本のようなIT利用後進国じゃなくて、米、EU、韓国、シンガポールなど先に進んでいる国々の同僚学者たちに、なぜ君らは教育情報化を止めなかったのかを聞いたほうが早いんじゃないですか?

>デジタル教育で先行する韓国の先生方に、日本で見られる懸念や心配はなかったのかと聞くと「そりゃあ以前あったが断行した、決断だ」という。必要性を政治や現場が認めるかどうか。1人が反対して9人の賛成を止めるかどうか。ということかと受け止めました。

>タブレット+電子黒板のマルチスクリーン、クラウドサービス、ソーシャルメディア利用の3点が教育情報化の新ステージ。日本はようやくマルチスクリーンに入る段階で、ソーシャルをガンガン利用する韓国に相当後れています。あ、学校でのソーシャル利用とか言うとまた「効果検証は」とか「プライバシー保護は」とか言う人たちがあふれますが、対応しません。使わないメリットを先に立証していただければお相手します。

理数系学会の懸念にどう応えるのかを訊いているのに、説明責任を放棄する中村伊知哉さん
  ※理数系学会の懸念とは、このことと思われます。
  → http://www.ipsj.or.jp/03somu/teigen/digital_demand.html
>「9つのチェックリスト」のことですか? それにはお答えいたしますが、9つのリスト、私は同意します。繰り返します。私は同意します。
>9つのリストでおっしゃってること、それでいいと思うし、デジタル導入後も可能ではないでしょうか。(ですから、これが3年前に出されたとき、賛成側にもあまり反応がありませんでした。)
>ただ、技術や情報リテラシーは進化していきますから、このリストの妥当性も見直していくことが必要になってくるでしょう。例えば(3)について「紙を使って考えながら作図や計算」というのは、十分なインタフェースであればデジタルのほうがよくなる場合もあろうかと私は思います。
>要はこれらみな「懸念」であって、導入を阻止するほどのものではないし、懸念が現実になるということならそれを実証されればよいと考えます。

反対派に実証を求めているのはわかるのですが、それでは反対派はどのように実証するのでしょうか?十分な検証や実験等が行われているなら反対派にも科学的に批判できると思うのですが、そのようなことが行われていないなら、反対派は当然批判できないと思うのですが?
>うむ

実証実験をしっかりやっていない
>実証はやり続けますが、10年やってもしっかりやってないと言われ続けるでしょう。「しっかり」の基準がないので。

そもそも反対している人は何を根拠としてるのか、まとめた記事などあればご紹介頂きたく
>以前、田原さんの反対論にはこう書きました。「デジタル教育は日本を滅ぼす」のか?   
 http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2010/08/blog-post_30.html 


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2013年9月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。