厚労省が育児休業中の給付金を、現行の50%から67%に引き上げる方針だそうだ。(最初の半年間限定)。
なんでも「1.89%という男性の育休取得率を引き上げることで少子化対策としたい」らしい。
ただ、はっきり言うが、筆者はこれまで「育休給付金が低いから育休取れない」と言っている男に一度も会ったことが無い。
「日本企業の場合、30代はキャリア選抜の最重要時期で、しかも一度パスしちゃうと不可逆的な昇進システムだから休めない」と言っている男子なら掃いて捨てるほど知っているが。
そういう意味で、給付金を引き上げたところで、男性の育休取得が進むとはとても思えない。
とはいえ
「育休は女性の8割以上が取得しているのだから、そのボリュームゾーンにまわるお金をそれなりに増やしてあげれば少子化対策になるのでは?」と考える人もいるかもしれない。
確かに記事にもある通り、女性の育児休業取得率は83.6%で、ほとんどの人が取得できているかのように見える(厚労省のH24雇用均等基本調査)。
でもこの数字にはトリックがある。この数字の分母は調査時に在籍している女性のみであり、出産を機に退職している人は含まれない。現実には過半数の女性が出産を機に退職している事実※を考えると、実際の育児休業利用者の割合は4割にも達していないはず。
というわけで、本当に意義ある少子化対策をうちたいなら、むしろ分母からはじかれている人達にもお金が回るシステムを構築することではないか。
当たり前だが給付金は税金なので、はっきり言えば今回の改定というのは、育児休業を利用できていない人も含めたみんなから、既に制度を利用している人達への献金みたいなもんだろう。
格差を是正しようと政府がばらまくのはよくある話だが、既存システム自体が欠陥品だと、バラマキを通じて格差が再生産されてしまうという見本みたいな話である。終身雇用で育休もバッチリ取れる雇用制度に乗っかれた人にとっては天から恵み
の雨が降ってくるようなものだが、そこから漏れている人たちにとってはむしろ負担が増えるだけ。
政府による再分配後、なぜか日本の場合は格差が広がっているというのは有名な話だが、そこにはこうした構造的な事情があるのだ。
以前、安倍さんが「育休を3年にしよう」といった時にも、筆者の周囲の女性のほとんどは冷淡な反応を示していた。きっと多くの女性は、それが実現したとしても、その恩恵に浴せるのはごく一部だけで、むしろ自分は弊害をこうむるのではないかと連想したのだろう。今回の給付金引き上げについて、世の女性たちの生の声を聞いてみたいものだ。
※第14回出生動向基本調査 結婚と出産に関する全国調査
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2013年10月28日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。