飲食での起業は、まず「胃袋の数」を考えろ --- 岡本 裕明

2013年11月08日 11:31

「起業のすすめ」を書いておきながらこのようなトピをあげるのも失礼かとは思いますが、世の中よい話ばかりではないということも踏まえ、お付き合い願えればと思います。

もしあなたが1000万円の資本で小さな蕎麦屋を立ち上げるとします。あなたの事業計画はどんな色でしょうか? ばら色、それとも収支トントンですか?


私がサラリーマンの頃、上司が「俺、退職したら喫茶店をオープンして好きな絵を飾って好きな客とだべっているのが夢なんだ」と言いながら時々その類の店に連れて行かれていました。マスターは暇そうにタバコをプカーと吸いながらたまに来るお客に愛想よく応対し、アルバイトの女子学生にほとんどすべての店のことをさせるという70年代、80年代によく見かけた喫茶店経営スタイルでした。今、この手の店はまず見かけません。ビジネスをやっていけないからでしょう。それから25年、その元上司は喫茶店を開業することはありませんでした。

流行らない理由はなぜでしょう。知っている人以外、その店に行く特別の理由がないこととその店に対する期待がないからであります。人は知っている店を選ぶ傾向が非常に強く、スタバやドトールといったチェーン店に安心を求めるのです。

蕎麦屋を立ち上げるケースを考えてみましょう。よほど蕎麦打ちの自信があって遠方客を引き込めるというケースを別にすればわざわざ電車に乗ってくる人はいないと考えます。その場合、ライバルは誰でしょうか? 近辺の蕎麦屋と考えると思いますが、実は近隣のすべての飲食店とスーパーマーケット、コンビニ、弁当屋が対象になります。潜在顧客は200メートル圏としてそこにあるそれら店がすべて競合しあうと考えなくてはいけません。

飲食の場合、ビジネスモデルは比較的単純で潜在商圏の人口が胃袋の数で、その人たちが昼食の胃袋を満たす方法を調べ、結果として自分の店に何人の客が来るかというフェアシェアを求める考え方があります。つまり、胃袋は一人ひとつで昼食は一度だけというほぼ確実な与件が設定できるのです。

これがアパレルですと非常に難しくなります。洋服を買い換える頻度や友達に刺激されるなど行動経済学がそこに登場します。更に供給側は近隣の商店ではなく、繁華街のデパートや専門店、更にはネットショッピングという無限の広がりが生じてしまいます。ですが、ボトムラインでは人間が着る服は一日に原則一人一着であるということです。

この二つの例から想像できることは何でしょうか? そう、人間が少なくなれば蕎麦屋も洋服屋も儲からない、ということです。では人口減が進む日本でどうやって儲けるのでしょうか? 以前、ビジネス必勝パタンについて書いたブログのとおりマーケットシェアを伸ばすということでしょう。それは決まったパイの奪い合いであり、必ず負ける人が出てくるということです。

ここから類推すると残念ながら日本には成長率はなさそうに見えます。

潜在成長率という言葉をご存知でしょうか?

「資本」「生産性」「労働力」という生産活動に必要な3つの要素をフルに利用した場合に達成される仮想上の成長率。生産活動に必要な設備などの「資本」、労働力人口と労働時間から求められる「労働力」、技術進歩によって伸びる「生産性」の3つの伸び率の合算値が「潜在成長率」である。現実の成長率は様々な要因により変動するが、中・長期的には潜在成長率と同様の動きになるといわれている(コトバンクより)

わかったようなわからないような説明ですが、要は基本的要素をベースにした潜在能力であります。三菱総研がこれについて研究しているのですが、日本の潜在成長率は現在0.5%程度。そして、今後、2030年まで多少上がり下がりしながらもこの水準を維持すると見られています。ちなみにその潜在成長率で足を引っ張っているのが労働力で今後も継続的にマイナス0.3-0.4%程度となっています。まさに少子高齢化が影響しているといえます。一方で資本と生産性はプラスで帳尻をあわしているという感じです。

労働力が下がり、資本と生産性は伸びるという経済が日本にやってくるとすればここには大胆な仮定をすることが可能かもしれません。つまり、一般消費者向けビジネスはパイの奪い合いが延々と続き、一部業界では価格競争をとめることはできないであろうと。つまり、そこには資本の論理が入り、チェーンが有利に働く局面が更に強まるかもしれないということです。

一方、資本を呼び込むのは日本のみならず海外を含められますから日本に投資をしたいと思わせる魅力があればそこにはマネーが入り込むということです。では、入り込んだマネーを利益につなげる方法ですが、生産性を上げて日本製を海外に売り込むというスタイルではないかと思います。つまり、日本は今後、海外なくして生きていけない経済モデルになっているということです。韓国が人口5000万で海外市場なくして生き残れないという焦りがありますが、日本の数十年後はまったく同じ言葉を返すことになるのです。

では蕎麦屋の起業はあきらめるしかないのでしょうか?

そんなことはありません。人口が増えるところに店を出せばよいだけの話です。大規模開発が計画されているところやマンション計画がたくさん進んでいるところは店が圧倒的に足りません。たとえば神奈川県の武蔵小杉はこの20年ぐらいの間に突然変貌した町で、高層マンションがにょきにょき立ち並びます。しかしここには胃袋を満たす場所は限られ隣の元住吉あたりまで足を延ばす必要があります。こういうところを見つければ高いフェアシェアを確保できるチャンスはあるのではないでしょうか?

日本で商売は儲かるか、といえばよく精査してから決めることが大事だということでしょう。イケイケどんどんではビジネスが飽きられた時、その下落は思ったより早くなりかねないのです。大事な資本を生かすような起業であって欲しいものです。

長くなりました。今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年11月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。

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