日本一早いビジネス書ランキングの講評(1位~5位)

今回、ランキングに発表した10冊の講評をおこなう。本ランキングは、年間を通じて刊行されたビジネス書の中から、読者評価、実用性、著者の専門性、そして市場での反響を総合的に判断して選定したものである。

2025年も数多くのビジネス書が刊行されたが、今年の傾向として目立つのは「実践性」と「再現性」を重視した書籍が支持を集めている点だ。理論だけでなく、読んだその日から行動に移せる具体的なフレームワークや、著者自身の実体験に裏打ちされた知見が求められている。また、従来の常識に一石を投じる「アンチテーゼ型」の書籍も注目を集めた。

今回は10冊の講評を前半・後半の2回に分けてお届けする。まずは1位から5位までを紹介しよう。

1位 「リーダーの仮面」(安藤広大 著)ダイヤモンド社

本書は「識学」メソッドに基づき、感情ではなく「ルール」で組織を動かす手法を明快に解説した実践的リーダー論である。

最大の特徴は、リーダーがフォーカスすべき5つの視点「ルール・位置・利益・結果・成長」に絞り込んだシンプルな構成にある。カリスマ性も人間的魅力も不要とし、「仮面」という概念で役割に徹することの重要性を説く。「褒めるだけでは人は育たない」「プロセスより結果を重視」といった主張は、従来の「寄り添うマネジメント」への明確なアンチテーゼだ。

読者からは「プレーヤーからリーダーへの意識転換でモヤモヤがスッキリした」と、新任管理職層から高い支持を得ている。一方で「調和を重んじる日本の伝統的な組織マネジメントとは一線を画している」ため、「全て共感・実践できる内容ではなかった」との声もある。

しかし筆者としては、感情に流されず再現性のあるマネジメント手法を求める新任マネージャーにとって、即実践可能なフレームワークを提供する良書だと評価したい。大手研修会社のテキストに匹敵するクオリティであり、数あるビジネス書の中でも出来栄えは頭ひとつ抜けている。ここまで惜しみなく公開できるのは、よほどの自信と実績があればこそだろう。

2位 「金運ハウス 一生お金に恵まれる家の秘密」(八納啓創 著)KADOKAWA

本書は、家づくりに風水と家相を取り入れた一級建築士が教える「お金を引き寄せる家」のつくり方を解説した実践書である。著者の八納啓創氏は、住環境系YouTubeチャンネルを運営し、東証プライム市場の経営者や年商500億円規模の経営者の自邸など120件以上の設計実績を持つ。

構成は、「金運ハウスにするための5つの鍵」「自動的にお金が入る家にするための15のこと」「予算別の具体的ポイント」と、段階的に実践できる内容になっている。一軒家からマンション、ファミリーからひとり暮らしまで、住居形態を問わない汎用性が特徴だ。

読者からは「建築士としての専門知識と風水・家相の知見、富裕層へのインタビューなど多角的な視点が興味深い」「漫画付きでわかりやすく実践しやすい」と評価されている。

ただし、風水や家相という性質上、科学的根拠を重視する読者には向かない面もある。しかし筆者としては、20年以上にわたり風水師や家相鑑定士と協働してきた著者の実務経験に裏打ちされた知見は、住環境を見直すきっかけとして十分に価値があると考える。間取りや収納の工夫で豊かさを引き寄せるという切り口は、住まいへの意識を高める良書といえる。

3位 「作家とお金」(本田健 著)きずな出版

本書は、累計発行部数800万部を超えるベストセラー作家・本田健氏が、20年以上の作家経験から得た「作家とお金」のリアルを赤裸々に綴った一冊である。夏目漱石や川端康成といった文豪たちのお金事情から、現代のベストセラー作家の収入構造、さらにはダークサイドに身を落とした作家たちの末路まで、多彩なエピソードで作家業の光と影を描き出している。

構成は、印税生活の夢と現実、〆切地獄の乗り越え方、作家になるための具体的な7つのアプローチなど、実践的な内容が網羅されている。特に「出版社任せにせず、著者自身がマーケティングに積極的に関わる時代」というSNS活用の重要性や、「10年後、20年後も読まれる普遍的なテーマを扱うこと」という長期的視点は、現代の作家志望者にとって示唆に富む。

読者からは「出版業界の夢を見させてくれつつ、リアルな現実も見せてくれる」「軽妙な語り口でぐいぐい引き込まれた」「現代と過去の作家のお金の使い方を比較した部分が印象的」と好評を得ている。

筆者としては、作家志望者だけでなく、すでに出版経験のある著者にとっても、自らのキャリアを見直す契機となる良書だと評価したい。創作活動と経済的自立の両立を目指す人にとって、夢と現実のバランスを取るための具体的な道筋が示されている点が本書の最大の価値である。筆者も作家であることから興味深く読ませてもらった。

4位 「がんにならない生き方」(田中良基 著)きずな出版

本書は、30年以上にわたり延べ3万人以上の内視鏡検査を行ってきた現役内科医が、「がんの9割は予防できる」という確信のもとに執筆した予防医学の実践書である。著者の田中良基氏は、大腸がんを中心とした消化器がんの診療を専門とし、複数の企業で産業医も務める現場主義の臨床医だ。

本書の特徴は、生活習慣や食事といった身体的要因だけでなく、「心の在り方」「人との関係性」といった精神的要因にも深く切り込んでいる点にある。「頑張りすぎる人ほどがんになりやすい理由」「自律神経と免疫力を整えるゆるめる生活」「自分をいたわることで自然治癒力が目を覚ます」など、西洋医学の枠を超えた視点から予防法を提示している。

読者からは「医療系の本だがわかりやすく、語り口が優しく、心に寄り添ってくれる」「具体的で簡単で、毎日の生活に取り入れやすい」「母にも読ませたかったと心から思った」と、患者や家族の立場に立った記述が高く評価されている。

ただし、「心と病気の関係」という領域は科学的エビデンスの議論が分かれる部分もある。しかし筆者としては、数万人の患者と向き合ってきた臨床経験に基づく知見には一定の価値があると考える。「健康は選択の結果である」というメッセージは、がん予防を日々の生活習慣の見直しから始めたい人にとって、実践的な指針となる良書である。

5位 「こどもアウトプット図鑑」(樺沢紫苑 著)サンクチュアリ出版

本書は、シリーズ累計100万部を突破した『学びを結果に変えるアウトプット大全』の待望の小学生版である。著者の樺沢紫苑氏は精神科医であり、YouTube登録者50万人超、累計発行部数250万部を誇るベストセラー作家だ。監修には児童精神科医の「精神科医さわ」氏が加わり、延べ3万人以上の親子の診察経験を活かした内容となっている。

最大の特徴は、小学生を実際に取材して集めた82項目の悩みに対し、「話す」「書く」「行動する」というアウトプットの力で解決策を提示している点だ。「なんでもマネしてくる子がいや」「授業中に手を挙げるのが恥ずかしい」など、子どもの日常に即したリアルな質問が並ぶ。フルカラーのイラストと漫画形式で、低学年でもスラスラ読める構成になっている。

読者からは「小学2年生の娘が質問してくる内容にばっちりヒットした」「字だと思っていたらマンガで、期待を大幅に超える内容だった」「親の自分も絵があることで理解が深まった」と親子双方から高い評価を得ている。

筆者としては、アウトプットの重要性を子ども時代から習慣化できる点で、教育的価値の高い良書だと評価したい。「3行ポジティブ日記」など具体的な実践法も示されており、親子で楽しみながらコミュニケーション力を育める一冊である。

以上、1位から5位までを紹介した。リーダーシップ論から住環境、作家業の経済学、予防医学、子どもの教育まで、ジャンルは多岐にわたるが、いずれも「明日から実践できる」具体性を備えている点が共通している。

後半では6位から10位までを紹介する。人前で話すスキル、人間関係の悩み解消法、母娘関係、健康と油の関係、夫婦のコミュニケーションなど、日常生活に直結するテーマが並ぶ。ぜひ続けてご覧いただきたい。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

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