中国で日本車が売れに売れています。10月の新車販売台数は、ホンダが昨年比3.1倍、日産が2.3倍、トヨタが8割増で、尖閣問題前の水準を上回っています。「あれ、日本が大嫌いだった筈なのにおかしいな」と思われる向きも多いでしょう。そこで、領土問題を起点とする「反日問題」についてお話させてください。
領土問題は、6者からなるゲームだと考えると解りやすいです。6者とは、日中韓の政府と、それぞれの国民です。政府と国民の立場を分けて考えるのがミソです。まず、中国政府にとっての尖閣と、韓国政府にとっての竹島ですが、一見同じようでいて、全く異なります。
中国は、南北西の3面をインド・ロシア・イスラムという潜在敵国に包囲されています。唯一のオープンスペース、太平洋へ抜けるため、九州を起点に、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオを結ぶ第一列島線を確保することが軍事戦略上意味を持ちます。
それをよく知っている米軍は、日本の自衛隊と台湾を従えて睨みをきかせ、正面対峙しています。中国は「やらなければ、やられる」という単純な防衛本能で南沙諸島、西沙諸島、尖閣でじりじりと実効支配域拡張しています。
そんな緊迫した状況下で、外交音痴の能天気な民主党政権が尖閣を国有化してしまいました。中国はこれを高度に計算し尽くされた米国からの挑発と捉えたのでしょう(真相はわかりません)。対抗措置として、国民を動員して反日デモを展開し対抗策に出ます。従って、中国政府に取っては、「尖閣」が目的で、「反日」は手段だった訳です。
ところが、韓国は違います。竹島は一部の漁業権益を除いて、占領することにあまり実利はないし、軍事戦略上も重要な拠点ではありません。「憎き日本」から奪い返した反日の象徴に過ぎません。
紛争の発端は李明博前大統領が支持率低迷の打開策として竹島に上陸したことでした。
韓国は現在、経済が低迷、政治・社会の混乱を招いています。新興国なのに経済がマイナス成長では、国民の不満が増大します。
そこで、起死回生で反日により支持率回復を図った。その後を継いだ、朴大統領に至っては、人気取りというよりも、ご自身が筋金いりの反日思想の持ち主ですから、ますます強硬姿勢を貫きます。世界のあちこちで、いわゆる従軍慰安婦、靖国とならぶ「反日三点セット」で竹島での日本の「非道さ」を吹聴します。
そんな彼女のストイックさ諸外国はあきれ顔ですが、国民支持率は高どまりです。従って、韓国政府にとっては、「反日」が目的で、「竹島」はその手段に過ぎないのです。だから、仮に竹島問題が解決されても、韓国での反日は収まらないのです。
こうした状況を踏まえれば、日本政府のとるべき方針は明らかです。中国政府には、詰め将棋のように相手の嫌がる布石をうっていくことです。TPPに加盟して民主党時代に綻んだ日米関係を修復する。ロシアに資源の購買をちらつかせて、軍事連携を深める。フィリピンやベトナムなど共通の領土問題を抱える国と共闘姿勢を深める。ミャンマー・インドなど中国周辺国との関係を深める等々です。
同じように大事なのは、尖閣国有化は「事故」のようなもので、日本には少なくとも現時点で中国と衝突する意思がないことを示すことです。安倍政権は、その戦略で行動しています。中国政府は計算高いですから、案の定、政府としての反日姿勢を徐々に弱めています。
一方、中国の国民ですが、巷間言われるように、反日は経済社会の綻びの不満のはけ口として利用していただけで、デモも政府に煽動されていた「官製」の要素が強かった。今は、反日デモなど鳴りを潜め、国民は自分に正直に信頼度の高い自動車などの日本製品を買い始めた訳です。これで一件落着でしょう。
むしろ、中国は、経済停滞、不良債権問題、PM2.5などの環境問題や民族紛争や国内テロ、イスラムとの小競り合いなど満身創痍なので、反日を煽っている暇がないのです。政府・国民ともに早晩沈静化するでしょう。日本製自動車が売れ始めているのはその証左です。
問題は韓国です。反日が国是である以上、中国のように理詰めで対応することは到底不可能です。下手に説得することは逆効果でしょう。
でも、何故、今、かつてないほど反日機運が高まっているのでしょうか? 戦時徴用賠償を巡る異様な判決、大統領自身の品位を貶めるような第三国との外交の場での日本批判。どうして、今なのでしょうか。私には二つ思い当たる節があります。
3年ほど前まで、日本経済は「失われた20年」で低迷する一方、アジア危機から脱した韓国経済は伸びに伸びた。日本の背中が見えてきた、もう少しで宿敵日本に追いつき、追い越すことができそうだ、そんな「希望」を彼らが描いたのは想像に難くありません。
時は日本の民主党政権。自虐史観が跋扈し、韓国の安っぽい韓流ドラマが街に流れ、日本企業はサムソン流経営に学べなどというトンデモ理論までまかり通った。マスメデイアはそれを煽った。日本は意気消沈。これは勝てると韓国の国民は思ったのでしょう。サッカーの試合などに見える日本に対する異常とも思える対抗意識、ようやくリアル経済でも勝利の灯が見えてきた。
ところが、あと一歩のところで、民主党政権は退陣。アベノミクスで日本は復活してしまう。一方、先進国とは思えない強引な為替政策で輸出の底上げをしてきた韓国経済は大打撃。
実は、国民の不満が一番爆発して、政情不安に陥るのは、元々厳しかったときではなく、一時いい上り調子であった後、ピークアウトして下降線に向かい始めた時、「叶いそうだった夢がはかなく消えてしまったとき。」なのです、今がまさにそういう時です。自暴自棄になるのも理解できなくはありません。
もう一つは、日本の軍事力強化への懸念です。安倍政権下で日本が右傾化、軍国主義化していくのではないか? 韓国と左派メデイアがマッチポンプのように煽動します。
しかし、よく考えてみればわかることです。東アジアにおける中国のプレゼンスが増大している。一方で、米国は、シェールガス革命で中東から母国へ石油を運ぶ通過点第一列島線防御の必要性は減退する。モンロー主義的孤立傾向を深めでアジアの軍事から手を引き始める。すると、東アジアの均衡が崩れて不安定になる。このため、恐らく日本・韓国・台湾のいずれかが米国の抜けた穴を埋めなければならない。だが、韓国も台湾も経済的余力がない。だから、日本がやむを得ず肩代わりをしているわけです。
韓国だって、いや中国・ロシアと正面対峙する韓国こそ日本の増強によるバランシングの恩恵を受けているわけです。日本の軍事増強がいやなら、どうぞ自分で軍事費を強化してくださいといいたいです。米軍を追い出しておいて、日本の軍事増強は反対、でも自分はお金をださない、というのはまるで駄々っ子です。
というわけで、中国は「実利」、韓国は「恨」という感情が反日の要因です。従って、韓国にたいしては理論で説得を試みても不毛なので、「きちんと反論して、毅然と放置する」。これしかありません。するとさらにヒステリックになるでしょうから、いくところまでいっていただくしかないでしょう。安倍ドクトリンはまさにこれを実践されています。
さて、最後に日本国民ですが、ほんの数年前までは、一部の「ネット右翼」を除いて大多数はそんなだだっ子のような韓国を慈悲・寛容の目で見守ってきました。しかし、今はさすがにあきれ果てています。「仲良くしようぜ」と在日韓国人の方や朝日新聞は主張されますが、無茶な因縁を付けられては仲良くしたくてもできないというのが大多数の国民の空気感のようにも思えます。安倍政権と目線は近いでしょう。
日本の政府と政権が一枚岩という状況は、大変有利なゲーム運びができます、早晩、中国が日本に和解を持ちかけてくるでしょう。そのときに孤立を深めてしまうのを恐れて、韓国は渋々白旗をあげてすり寄ってくるでしょう。
その時には、慈悲と寛容の心で迎えてあげましょう。ただし、仏像だけは返してもらわないといけません。
Nick Sakai
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NPO法人リージョナル・タスクフォース、代表理事
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