ちきりん流ベンチャー成長論の“欺瞞”

新田 哲史

早明戦まで、まだ半月以上あるというのに昨晩“荒ぶって”しまった。
例によってグローバルマチョ子「大企業のほうが成長できるとか完全にウソ」などと抜かす煽り記事を書いており、やり場のない怒りを覚えたからだ。炎上マーケティングの確信犯にも見えるが、今回は敢えて挑発に乗ってやろうやないけ。


未読の方はまず当該記事を読んでもらいたいが、要は彼女が言いたいことはこのくだり。

「いきなり起業」や「海外就職」はもちろん、日本で勤め人になる場合でも、ベンチャーとか外資系企業とかNPOあたりで働いたほうが、最初の3年間の成長は明らかに早いはず

●“成長”って何?
はぁー(-_-)。一見、頷けそうにも思えるが、そもそもこの記事で言う“成長”って何?記事の後半の方では、大企業にいると「リーダーシップを鍛える機会が、最初の数年間ほとんどなかったり」等と述べているところからリーダー育成、マネジメントスキルのことを言っているのだろうか。いや、そもそもビジネスパーソンの成長って、業種、職種によっても違うし、本人が目指すステージ、会社側が求める社員像は違うだろう。“成長”というビッグワードに集約させて、自らエバンジェリストを務める「ワークシフト」の世界観を信奉する学生や若い社会人をひたすら煽り立てているだけではないのか。


たしかに、オールドエコノミーと分類されるような伝統企業を中心に日本の大企業の中には、組織が硬直化していたり、年功序列などの雇用慣行が旧態依然としていたりするのは一つの現実だ。ぶっちゃけ、私がいた新聞業界などは典型だった。彼女がdisる“大企業”に入社すると暫くの間は歯車の「歯」扱い、30歳前後でも下っ端てことも多いだろう。一方、創業から数年で上場まで行ってしまうようなベンチャー企業に入れば、20代で役員抜擢だってある。ただし、これらの状況は自分なりに見聞した実例を踏まえてはいるけれど、やれ「大企業」、やれ「ベンチャー」とステレオタイプに括るのは乱暴だ。もし、マチョ子の言説が印象論に偏向しているなら、彼女の著作やブログを読みふけっている就活中の学生や若手社会人に妙な影響を与えるのではないかと危惧する。



●大企業では“成長”しないのか?
色々言いたいことはあるが2点指摘したい。
まず、こういう問題は丁寧に論じるべきだ。本当に“大企業”にいれば成長できないのか?ケース・バイ・ケースではないのか?もしかしたらマチョ子の定義では、ベンチャーに入るかもしれないが、それこそ楽天だって連結で社員9千人、売り上げ4千億円の“大企業”だ。あの会社で仕事をしていれば、それこそ英語力は“成長”できるぜ(苦笑)ミッキーの電光石火のような意思決定の速さは、僕もよく存じ上げているので、あの会社でずっと働いていたらリーダーシップもPDCAサイクルの回し方も“成長”するよ。筆者の親しい社員はマジで皆優秀だ。

2点目は、「大企業か?ベンチャーか?」と言ったところで、それぞれでキャリアスタートする場合のメリット、デメリットはある。確かに、マチョ子の言うようにいかに研修が充実していようと本当の仕事力は身に着かない。“大企業”なら意思決定が遅かったりしてリーダーシップが身に着くのに時間がかかるかもしれない。実際キャリア戦略的に敢えて中小やベンチャーを選ぶ選択肢もある。例えばマーケティングの仕事は大企業だと若いうちは希望しても配属されづらい。筆者の大学の後輩の女性は新卒で敢えて大企業に入らず、20代の後半をPR会社で過ごしマーケティングの経験を積んだ。そして30歳になる今年メーカーに転職した。もし新卒でそのメーカーに入社していれば、20代はひたすらどぶ板営業した後で、マーケティング部に配属されていた可能性がある。30代を迎えた時に5年以上の実務経験があるのと無いのとでは相当違う。

逆に大手企業でないと経験できないような、経済的・社会的に影響力の大きなプロジェクトに若くして関与できることもある。20代の小僧に任される業務がほんの一部だったとしても、本人が「指示待ち」の姿勢ではなく、上司や先輩から全体を俯瞰する視点を学び取ろうとする高い意識でいれば、社員数人の会社では決して見られない風景を見渡せる。30代でMBA留学をしたい場合、大企業なら学費の貸し付けもある。筆者自身も日本最大手の新聞社にいたからこそ、30前後の若造が森元首相や星野監督のようなVIPに取材も出来た。大企業でも本人の意思や環境次第で“成長”できるのではないか。

●反グローバルマチョ子宣言
まあ、ここでツラツラ書いたところでマチョ子は論争は見世物だとして一切受け付けないそうだ。このブログも無視しているかもしれない。そして今後も煽り記事を書き続けるのだろう。ならば、こちらも時折ブログを書くなりして外野から声を上げ続けてみるまでだ。あるいはFacebookページで「反グローバルマチョ子宣言」を開設するなりしておかしな記事を書くたびに色々指摘してみようか。みんなでマチョ子を挑発し続ければ、どこかで心変わりして、来年の今頃でもトークバトルでも応じたりしてね。実現したら、会場は講談社、司会は徳力さん、僕のセコンドは常見のアニキ・・・あれ?どっかで聞いたことがあるような舞台設定だな。いや別に見世物にするのは本意ではないし、マチョ子をダシにして自分の知名度を上げようという魂胆もないけど。

とりあえず、その日に備えてこちらは「ワークシフト」をもう一度読み直すなりして、勉強してみよう。あ、その前に今日の講演の準備をしないと。そんじゃーな(~_~)!

新田 哲史
Q branch
本日は愛知県岡崎市へ講演出張中の広報コンサルタント/コラムニスト
個人ブログ