頭の悪いマスコミが戦争への道を開く

池田 信夫

朝日新聞の長谷部恭男氏に対するインタビューが話題になっている。いきなり「御用学者」と呼びかける無礼さにもあきれるが、中身はまるで頭の悪い学生に先生が教えているようだ。

――秘密保持は、今ある法律を使えば十分可能ではないですか。

「これまでは、各役所がそれぞれ、首相に情報を上げていました。これでは到底、国は守れません。たとえばテロリストの活動や重大犯罪から国を守るためには各役所が情報を持ち寄り、連携して効果的な対策を打たなければならない。特定秘密法ができたことで、秘密は守られるからちゃんと情報を出しなさいと言えるようにはなります」

――しかしこの法律では、そもそも何が「特定秘密」に当たるかが全くわからず、秘密の範囲が際限なく広がる危険性があります。

「今回の仕組みは、特別に保護すべき情報を金庫の中に厳重にしまって、権限のある人だけが見られるようにするというものです。なんでもかんでも金庫に入れてしまうと政府の仕事がやりにくくて仕方がない。常識的に考えて、秘密の範囲が際限なく広がることはありません」

この高橋純子という記者の質問は矛盾している。「今ある法律を使えば十分」というのは、秘密保護法が国家公務員法と機能的に同じだといいたいのだろうが、他方で「秘密保護法は際限なく拡大解釈される」という。これを合わせると、こういうことになる:

現在の国家公務員法でもマスコミを逮捕できる。今は「秘密」の定義がないので際限なく拡大解釈でき、民間人も「共謀・教唆」で逮捕できる。

長谷部氏もいうように、拡大解釈のできない法律なんかない。それを制限するために裁判所があるのだ。現在の「特別管理秘密」には法的基準がなく、課長の決裁で適当に決めているが、今回の法律では特定秘密の定義を厳格にしたので、裁判所の判断も制限的になる。特定秘密の範囲は、今より狭まるのだ。

こういう記事を読むと、マスコミが社会のエリートだった時代も終わったんだなと思う。私の受験したころは朝日の入社試験はペーパーテストで、競争率は150倍ぐらいだったが、今は普通の会社と横並びの面接だ。就職偏差値でも、かつて朝日は人気ベスト10の常連だったが、今は100位にも入らない。明らかに定年まで会社が存在しないからだ。

官僚やマスコミの人気が落ちるのは健全なことだが、危険でもある。科挙のような儒教型メリトクラシーでは、法律ではなく「賢人」が国家を統治するので、試験で選ばれたエリートが権力をもつ。日本の社会も儒教型で、法律の建て前とは無関係に、官僚>マスコミ>政治家の順に偏差値が高く、信頼されていた。

こうした事実上の階層秩序は変わっていないので、それをになう官僚やマスコミが馬鹿になると、意思決定が混乱する。特にマスコミに、高橋記者のような国語能力もない落第生が入ってくるのは危険だ。マスコミはまだ力をもっているので、1930年代のように大合唱すれば戦争をやらせることもできる。それが歴史の教訓である。

長谷部氏もいうように、秘密保護法は「国を守るための法律」だが、戦後ずっと平和ボケの教師に教わってきた世代は、国家とか戦争という言葉にリアリティがない。それは幸福なことなのだが、これから否応なくそれを意識せざるをえなくなるだろう。アゴラ読書塾では、そういう変化に個人がどう備えるかを考えたい。