「理解を求める」「広報外交」という、安倍政権の「根性論外交」の無意味さ

2014年01月08日 11:13

安倍総理や菅官房長官は、「(米中韓に対して)理解してもらうための努力を重ねていきたい」と繰り返す。また、彼らはその為にも「戦略的広報外交が大事」と繰り返す。要するにPRを頑張れというのだ。しかし、これらの目的と手段は、到底不可能な愚かな行為であり、特に後者については韓国と同等もしくはそれ以下であると、以下では論じたい。


1.理解を求めるという目的の無意味さ
昨年、沖縄県から戻ってきた内閣府の友人に会うことがあったのだが、面白いことを言っていた。彼は、沖縄県庁の担当者と折衝をする中で、先方の度重なる拒否に疲れ、半分冗談で「どういう内容だったら、沖縄県の皆さんは満足するのですか?」と聞いたそうだ。それに対し、県庁の担当者は満面の笑顔で「それは皆さんで考えてください」と答えたそうだ。

このことが意味するのは、「公的な場」で、沖縄振興なり基地問題についてはどうすれば納得するかについて「現実的な回答」を沖縄県庁の役人はしたくないということなのだ。何故ならば、仮に「こうしてくれれば満足します」と「理解」を示した瞬間に責任を引き受けなければならないからである。例えば、オスプレイについて「理解」を示した瞬間、万が一墜落した際は沖縄県も責任を取らねばならない。移設に「理解」を示せば、その移設の経過で反対派の危険な行動によって死者が出れば沖縄県も責任を取らねばならない。(その意味で、仲井真知事が今回、具体的な要求を出し、辺野古埋め立てを受け入れたのは画期的だと言わざるを得ない。勿論、振興策はやりすぎの税金の無駄遣いだが)

沖縄県の姿勢は一定の批判を受けるべき部分があるが、要するに「理解」を得るというのは、同時に相手にも「責任」を要求することなのだ。だから、靖国神社参拝について、米中韓に理解をしろというのは極めて愚かであるし、挑発でしかない。米中韓にも、その結果についての責任を共有しろと言っているのに等しく、中韓は国内的に、米国は外交的に不可能だからだ。まさしく、先日の論考で引用したように、知日派のボストン大学のグライムス教授が「安倍首相一人の為に米国が歴史認識を変更するのは無理」なのである。故に、靖国で理解を求めるという目的は、実現は不可能であるし、余計に相手を挑発するだけなのである。

2.広報外交という手段の無茶苦茶さ
「マルビナス諸島はわが領土」byアルゼンチン政府
「チベットでの民族浄化は嘘です」by中国政府

という意見広告が読売新聞に一面ぶち抜きで出たら皆さんはどう思うだろうか。おそらく、前者については「ははぁ」という感想しかないので翌日には忘れ、後者については臍で茶がわくと余計に怒りしかないだろう。

何故、そういう感想になるのか。それは、相手の価値観に立脚した意見でなければ意味が無いからなのだ。実際、マルビナス諸島もといフォークランド諸島の意義など私たちの価値観にはないので幾ら訴えかけられても「ははぁ」以上の感想はないし、中国によるチベットやウイグルでの人権侵害は、どのような理屈であっても絶対に許せるものではない。

これは、ネット右翼、ネット左翼に対して、彼らの価値観に合致しない意見を幾らお金をかけてPRしても意味が無いし、クリスチャンに対して、壮大なパワーポイントで優秀な営業マンが神の不在を訴えても意味が無いのと同様なのである

つまり、広報外交というのは、最初に相手の価値観に沿わなければ、膨大な資金をかけようが、どのような知性を活用しようが無理なのだ。歴史的にもそれを証明しているのは、日中戦争時が良い例だ。日中戦争時、国民党政府は、クリスチャンで英語が堪能という、米国人の価値観に合致するキャラクターである宋美齢(蒋介石夫人)を使って、米国内部での支持を獲得した。

他方、日本政府はまったく支持を得られず、日米戦争直前に至っても、親日派の神父ぐらいしか調停を手伝ってくれなかった。要するに、日本の価値観にナチュラルに染まっている人間しか日本を支持してくれなかったのだ。これは、当時の日本政府も、声高に自分の価値観に基づいた主張しかできなかった、もっと言えば、相手の事情を考慮しない自分の主張を押し付けることしかできなかったというべきだろう。

3.韓国のロビー活動の正否に見る広報外交で大事なこと
もっと分かりやすいのは、最近の韓国の行動だろう。韓国の米国内での代表的な広報外交は、1.慰安婦問題、2.日本海の名称を東海に、3.核燃料再処理が主要な論点だが、これらの成功度は、慰安婦問題>日本海を東海に>>>>>>>>>原子力の再処理だと言えよう。

何故ならば、慰安婦問題では、「comfort women」で検索するだけでもかなり極端な内容が多々出てくるだけでなく、2007年の下院決議に始まる連邦および地方議会での決議、近年の増殖を続ける慰安婦像等々と一定以上浸透してしまっている。

他方、日本海の名称を彼らの言うところの「東海」に改称または併記運動は慰安婦問題ほど、米国内で浸透していない。しかし、Googleがマップなどで両論併記にする等、局地戦で韓国が勝利を収める事例が見られる。

もっとも悲惨なのは、核燃料再処理である。韓国は昨年4月まで行われた米韓原子力協定の改訂交渉において、かなりの努力を持って、自国による核燃料の再処理を米国に認めさせようとしたが、けんもほろろに断られ、米側の交渉担当者だったロバート・アインホーン(元米国務省特別補佐官)からは「韓国に独自の再処理を認めれば、米国の核不拡散政策に損傷を与えるだろう」と不拡散政策における危険な国家扱いをされる悲惨な結果となった。

なぜ、このような落差が生まれたのだろうか。韓国は、どの問題も自国の国益にとって重要であることから、相当のロビー活動をやっていたのは間違いない。
にもかかわらず、このような落差が出たのは、ロビー活動の際にどのような価値観が基盤にあったかである。

慰安婦問題は、女性と人権問題、「第二次世界大戦は正義が悪を駆逐した」という米国人の琴線に触れるものだった。だからこそ、共和党のブッシュ大統領でさえ、当時の安倍首相に慰安婦問題での謝罪を要請するような、韓国側の優勢となったのだ。

次に、東海問題は、米国人の価値観からすればどうでもいいものだった。米国人から見れば、日韓は共に「自国のものだから」というまったく響かない主張をしているだけに過ぎない。そもそも、彼らは、ほとんど領土問題を主観的には抱えたことがないし、日本海なぞ田舎の出来事でしかない。となれば、喧嘩両成敗ということで、両論併記が一部で出てきてしまうのである。

最後に、核燃料の再処理は、まったく韓国人による韓国人の為の主張でしかなかった。この件での韓国側の主張は端的に申せば、「日本だけに再処理の権利があるのは不平等」というものだった。要するに、日本だけずるいという主観的な主張である。しかも、彼らは核開発の前科があり、どう見ても将来的な核武装の一段階と見るべきであって、これは韓国の主張の身勝手さをより米国の視点からは強調する。

つまり、1.慰安婦問題、2.日本海の名称を東海に、3.核燃料再処理はどれも相当の熱意を持って行われたにもかかわらず、これらの主張の背景にある価値観がロビー活動の結果を決したのである。

4.広報外交をやれ、という前に
以上のことから、広報外交には、相手の価値観に沿って行わなければならないということがわかる。しかるに、安倍政権やその周辺はどうか。彼らはひたすら理解を求める、広報外交が大事だという。そして、「我が国固有の領土」やら「靖国は宗教問題」などと、東海や核燃料再処理における韓国人の主張と同レベルの主張しか行わない。特に、靖国問題は、それ自体ではなく、第二次大戦というより大きな価値観が根底にあり、米国人が「正義が悪を駆逐した」等と思っている以上、細かい話を展開したところで無理である。

連続殺人・強盗の「容疑者」の弁護士が「彼は親孝行で云々」「貧乏な子どもたちを助けるために強盗し、全額を彼らに寄付」等と言っても「でも10人殺したんでしょ?」と世論から言われてしまうのと同じなのだ。殺人という大きな価値観の前では小細工は通じない。(こういうと「日本が好きなだけ」という人々は爆発するが、相手がどう思うかは別だと考えるべきだ。好きなだけではダメで、頭脳を使わなければならない)

だが、安倍首相を支持する人間は、すぐ広報外交が大事だとか、ロビー活動は金が全てだとか、意見広告を出せばいいとか言い出す。それは自らの正当性とその基盤にある価値観を確信しているからなのだが、それが相手に通じるか考えるべきだ。アルゼンチンが「マルビナス諸島はわが領土」だとか、中国政府が「チベット人は幸せ」と日本の新聞に出すのと同様の無益もしくは逆効果な行為でしかないのだ。

そもそも、新渡戸稲造が米国でどのような活動をしたかを思い出してみるべきだ。彼の著作である「武士道」は騎士道精神に翻案したファンタジーという批判をしばしば受ける。しかし、だからこそ、彼の「武士道」は米国人の価値観に沿っていたが故に普及したのである。そして、それはルーズベルト大統領等への有効なソフトパワーとなり、日露戦争で日本の国力が尽きる前に講和を成功させることの一助にもなった。

では、靖国で同じように、米国人の価値観に沿って広報外交が出来るかと言えば不可能だろう。第二次世界大戦は「正義が悪を駆逐した」というストーリーを肯定しつつ、修正主義者の極右と思われている安倍首相が、靖国神社を肯定するというのは無理だ。

5.結論
米国を始め海外における情報発信が大事と言うのは結構だ。しかし、ただ金と熱意があればいいと言うのでは、単なる愚かな「根性論外交」でしかない。満洲事変以降、我が国の軍部の首脳たちは、問題行動を起こすと、外交でなんとかすべきと外務省に要求した。挙句の果てには、戦争末期になっても、ソ連に和平の仲介と資源の調達を実現するよう外務省に強要した。具体的な手段に触れず、たた自分の主張をすればいい、しつこく言えばいいと安倍首相やその支持者はすぐに言うが、かつての彼らとどう違うのか。まったく変わらない。

だいたい、熱意と資金のごり押しで勝てるのであれば、莫大な資金でロビー活動を展開している中国によって、とっくに西太平洋は中国のものとなり、日米安保は破棄され、米中二極体制になっており、中国へのサイバー問題での批判など消え失せている。それがそうなっていないのは、中国の主張や実際の行動に米国人の価値観と衝突するものがあるからである。

繰り返すが、理解を求める、広報外交が大事、それ自体は間違っていない。それは大事なことだ。しかし、具体的なアプローチや、それが実現可能かを考えなければならないし、理解を求めるということが、責任の分担を要求しているということも良く考えなければならない。でなければ、我が国の主張は一顧だにされず、まさしく国力をただ損耗し、日本のソフトパワーと名誉を傷付けるだけだ。

そして、残念ながら靖国神社問題では具体的なアプローチはない。米国人の琴線に触れる価値観を広報外交の根幹に用意できないからだ。だいたい、歴史問題で理解を求める、つまり米国人にも責任を共有しろというのが無茶苦茶なのだ。

付記
アーリントン=靖国論は、なんとか米国人に波及するように考えたつもりなのだろうが、言うまでもなく根底の部分で拒絶反応が出るので無理だ。ケビン・ドゥクを持ってきて言う人間もいるが、彼は共和党系でも一部の一部であるし、今の政権は何党だったか思い出すべきだ。中国が福島瑞穂をもって「日本人も認めている」と言うようなもので、自分にとって心地よいか、それがメジャーな意見かどうか、よく客観性をもって考えるべきだ

付記の付記(1月8日1325追加)
ブロゴスのコメントを拝見していると、「中国韓国に対しては理解を求めるふりをしているだけだから問題なし」という御意見があるが、私が、そして安倍首相、菅官房長官がメインで言っているのは米国におけるロビー活動だ。韓国の対米ロビー活動の失敗を書いたのはそういう趣旨である。また、実際に自民党の佐藤正久議員は以下のような「対米根性論外交」を真顔で言っている。

站谷幸一(2014年1月8日)

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