本当の税負担とは何か

2014年01月13日 21:46

2014年がスタートした。今年は4月から消費税率が5%から8%に引き上がる。一般的な税負担に関するイメージは次のようなものが多い。

例えば、年収500万円で消費が300万円のA君のケースを考えよう。消費税率が5%のときの税負担は15万円(=300万円×5%)であるが、消費税率が8%になると税負担は24万円(=300万円×8%)になる。このため、消費税率引き上げによる負担増は、9万円というイメージである。

このイメージは正しいように見えるが、再分配を含めつつ、経済全体でみると誤っている。理由は単純である。政府が「誰か」から徴収した税金は、何らかの支出として「誰か」に再分配されるためである。実は、ここに「本当の税負担とは何か」を考えるヒントが隠されている。


以下、特殊なケースから順に説明しよう。まず、上記の例で、経済にはA君しかおらず、徴収した税金を全て、直ぐにA君に再分配するケースはどうだろうか。

消費税率5%のときA君は政府から15万円の再分配を受け、消費税率8%のとき24万円の再分配を受ける。支払った税負担から受け取った受益(再分配)を差し引いたものを「純負担」というが、それがA君の「本当の税負担」であり、A君の「純負担」はゼロとなる。

では、消費税率が8%のとき、経済に同じ年収500万円・消費300万円のB君もおり、徴収した税金を全て、直ぐにA君とB君に再分配するケースはどうだろうか。そのとき、政府は徴収した税金の半分をA君、残り半分をB君に再分配するルールを採用するものとする。

このようなルールの下、A君もB君も消費300万円を変更しないならば、両者の税負担は24万円であり、両者は政府から24万円ずつの再分配を受けるので、A君とB君の「純負担」はゼロとなる。

しかし、これは賢い選択ではない。上記のルールでは、A君がB君よりも賢い場合、A君は消費を戦略的に少し減らすのが賢い選択であるためである。例えば、いまA君は消費を200万円に減少させ、B君は消費300万円を維持するケースを考える。

このとき、A君の税負担は16万円(=200万円×8%)、B君の税負担は24万円(=300万円×8%)であり、政府の税収は40万円となる。この税収の半分ずつをA君とB君に再分配するルールの下では、両者は20万円ずつの再分配を受けるので、A君の「純負担」はマイナス4万円(=受益超過)となる一方、B君の「純負担」は4万円(=負担超過)となる。

つまり、上記のルールでは、A君は戦略的に消費を減少させることにより、4万円の得をし、その負担をB君に押し付けることができるのである。

だが、「本当の税負担」に関する議論はここで終わらない。というのは、A君とB君の「純負担」の合計はゼロであるから、A君とB君の間に損得が発生しても、その文脈では経済全体から資源が失われたとは言えないからである。これは、政府が「誰か」から徴収した税金は、何らかの支出として「誰か」に再分配されるためである。

では、経済全体でみた「本当の税負担」とは何か。上記の例では、それはA君が戦略的な行動をとることで失われる経済全体の消費量と関係する。A君が戦略的な行動をとらない場合、経済全体の消費量(A君とB君の消費合計)は600万円であったが、A君が戦略的に消費を変更する場合、経済全体の消費量(A君とB君の消費合計)は500万円に減少した。当然、消費量の減少は生産量の減少をもたらす。

これは、税の存在が、経済に「歪み(Distortion)」を与えることを示唆し、この「歪み(Distortion)」が経済全体でみた「本当の税の負担」にほかならない。

当然、「歪み(Distortion)」は税の徴収や再分配方法に依存する。上記の例では、「歪み(Distortion)」のイメージを明らかにするため、徴収した税金をA君とB君とで折半して再分配するルールを採用したが、現実の政策ではこのようなルールは採用していない。

実際に徴収した税金は、社会保障(年金・医療・介護)や教育・公共事業といった公的サービスとして再分配されており、各個人の戦略的行動も複雑で、増税後における各個人の「純負担」は様々である(注:世代間移転の場合はこちら)。

その際、消費税率引き上げによる負担増について、冒頭のようなイメージは正しい見方とは限らない。繰り返しになるが、まず第1に、政府が「誰か」から徴収した税金は何らかの支出として「誰か」に再分配されるためである。また第2に、各個人が政府から受ける再分配を考慮すると、その負担増はずっと小さいケースも存在するためである。

そして、経済全体でみた「本当の税負担」とは、増税が経済に与える「歪み(Distortion)」であり、それは見かけ上の税負担よりも大きいケースもあれば、小さいケースもあるのである。上記の例では、むしろ、生活必需品のように、戦略的に変化させにくい消費が大部分を占めるケースでは、「歪み(Distortion)」は相当小さいのである。

(法政大学経済学部准教授 小黒一正)

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