安倍首相の「ダボス発言」を考える --- Nick Sakai

2014年01月25日 18:14

安倍首相のダボス会議での発言を少しあきれてみています。「ああ、いっちゃった」って。世の中には、「正論(建前)」と「本音」というものがあります。あるいは、「理」と「情」と言い換えてもいい。

私たち人間は、日本人であれ外国人であれ、その両方に動かされて、そのバランスの上で行動し、生きています。「正論」は、小学校のホームルームでは受け入れられても、世の中には通用しないということはよくありますよね。いわゆる「大人の事情」というやつですね。フーテンの寅さんの口癖でしたが、「それをいっちゃーおしめーよ。」という。


今回はその典型的ケースだと思います。私は安倍さんの政権運営を概ね強く支持しているのですが、どうしても彼は、人柄のいい優等生・おぼっちゃん的な性向が随所で出てしまいホームルーム的な発言が目立ちます。それが「国益」を損ねないかちょっとだけ心配です。

まず、厳然として冷徹な事実を踏まえましょう。第一に、日本は第二次世界大戦の敗戦国です。全面降伏しました。今も国際連合には敵国条項があります。第二に、産業革命以降の世界は、今も欧米によって覇権を握られているということです。経済的な力は日本もかなりもってはいますが、政治・外交・経済のボール支配力は欧米が圧倒しています。

では、なぜ、日本が戦争に負けるはめになったのかというと、アジア他国は植民地として欧米の軍門に下ったのに、日本だけは力を付けて、反抗し、自ら植民地を拡大するに至り、帝国主義時代の欧米列強の権益を脅かしたからです。日本攻撃の大義としては「キリスト教史観に基づく「自由」と「民主」という世界原則を脅かすファシズムを打倒する」といったこともあったのかもしれなせんが、むしろ底流に流れる本音(感情)は「白人でないアジアの小国が何生意気に列強気取ってんだよお前」という意識もあったのではないかと思います。恐らく、たとえ、日本が「ファシズム」でなかったとしても、結局は攻撃されたような気がするんです。

だからこそ、東京裁判でアジアの盟友インドのパール判事は、日本に一定の理解を示したし、インドネシアなど多くの東南アジア諸国や台湾は「植民地支配」を受けた筈なのに今も親日的であったりするのではないでしょうか。「欧米にやられっぱなしだったのに、日本はアジアの一員として一矢報いた。よくやったと」。

それはともかく、戦後日本はアジアの優等生になりました。自ら悔い改め、欧米的価値観や、社会・経済・文化を100%受け入れました。平和憲法を持ち、不戦の誓いをたてる訳です。米ソ冷戦化のアジアで赤化の砦として機能し、「欧米の言う通りに自由貿易と民主主義を取り入れれば、こんなに経済的には豊かになれますよ。(軍事力はもてないけど)」という広告塔の役割を果たしました。そんな日本を欧米は、慈悲深いまなざしで見守ってくれました。「価値観を共有する日米同盟は米英同盟にならぶ堅固なもの」と「優等生の日本」が発言すると英米は暖かく頷いてくれたものでした。

しかし、私は思うのですが、いくら価値観を共有しても、欧米は心の底から日本を感情面で信頼することは、なかなか難しいと思うのです。アメリカがイギリスと同程度まで日本に心を開くことはないだろうと。

誤解のなきよう申し上げますが、私は妙なコンプレックスや人種差別や偏狭なナショナリズムを是認しているのではありません。ただ、人間というものはすべからく頭では解っていてもどうしても「彼」と「我」を分けてしまう、身内意識をもってしまうといいたいのです。そこは認めておかないと、判断を誤ると申し上げたいのです。

「自由と民主を尊重しない中国に対峙するため、価値観を共有する欧米と日本は協調すべき」というのは全く持って正論で誰も否定しないでしょう。欧米も、中国の台頭に脅威を持っているでしょう。韓国の中国への接近を快く思っていないでしょう。

でも、それと同じくらい、心の底では、日本があまり力を付けてもらうことは歓迎しないのではないでしょうか。まあ、君はよくやっているけれど、そこまで僕たちの身内じゃないのだからということで。だから、米国大使にしても、オバマ大統領にしても、「まあ、日中韓でよく話し合って仲良くやってください」ということになります。すると日本は、「僕はこんなに頑張って、いい子になったのになんでほめてくれないの?なんで不良を庇うの?」という不満を持つ訳です。

そこへ持ってきて、白人の聖地、ダボス会議で日中関係を英独関係に准える発言、多分アングロサクソンの方々は大変複雑な感情を持ったと思います。もしかしたら、白人の方々には「日本と英国を一緒にするなんて100年早いよ」なんていう感情はあるかもしれませんね。

アセアンやインド・ロシアと友好関係を強化し、中国と韓国に対しては、先方がじれるのを待つという巧妙な策を奏功させているのに対し、欧米に対しては、「日本を100パーセント支援してください」などとてらいもなく訴えかけるのはいかがなものかと思います。ある意味、どこかの国の告げ口外交と同類にされてしまいます。正論世界にはあり得ても、現実世界には100%の正義や大義などは存在しません。覇権を有する支配国の「100%日本が正しい」というお墨付きをもらえることはないでしょう。

だから、日本の為政者は、こうした欧米人の「正論と本音」を十分に斟酌した上で、日本の立場をよくする発言をすべきです。まあ、アベノミクスの実質的な円安政策に英米は黙認態勢を続けているということで、安倍政権の切り回しはここまで概ね順調です。しかし、ところどころ、しなくてもいい敵失を招いているのでそこは気をつけたほうがいいでしょう。

Nick Sakai
サイト
NPO法人リージョナル・タスクフォース、代表理事
個人ブログサイト
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