自己中心的な金融政策へ舵を切るアメリカに要注意 --- 岡本 裕明

アゴラ

マネーの流れは目先のニュースでそれまでの本流が一気にその流れを変え、違う方向に行くことはよくあることです。ひと月、ふた月ぐらい前まで言われていた本流とはアメリカの景気回復→金融の量的緩和からの脱却→ドル高→円安→日本株高でありました。ところがこのシナリオには金融量的緩和からスムーズに離脱できるという前提がありました。少なくともバーナンキ議長は同じ過ちを二度繰り返さないと自負を持っていたはずです。それが12月に発表された長期にわたる低金利へのコミットでした。


今、新興国からのマネーが再び流出し始めました。アルゼンチンに端を発したこの新興国通貨安はトルコ、南アフリカ、ロシア、インド、インドネシア、ブラジルを始め、世界中に感染病のように広がり、新興国マネーは干上がり続けています。政策金利を上げるなど各国は断固とした姿勢で通貨防衛の姿勢を見せていますが、もともと入ってきた外国のマネーが勝手に出ていくのは投資家の自由だとすれば金利を上げる通貨防衛の効果も半減するというものでしょうか?

ではそのマネーは何処に行ったのでしょうか?

欧州の株式、特に南欧に向かっているというのがフィナンシャルタイムズの記事でありました。理由は投資利回りが同じぐらいなら欧州の方がユーロの傘下にあり、より安全であるという発想かと思います。

問題は今後です。アメリカの量的緩和の出口戦略はまだ二回目の決定が終わったところです。国債などの購入額が現時点で月当たり650億ドル分に減ったと言えども今後もミーティング毎に100億ドル程度のペースで減らしていくとなればほぼ今年いっぱいかかる計算になります(今年はFOMCのミーティングはあと7回しかありません)。その間、例えば100億ドルずつ減らされる度に新興国通貨は軋みを上げるということになるのでしょうか? さらに最悪だったのは1月28~29日のFOMCにおいてアルゼンチンを含む新興国通貨安に関して議事録で全く触れていないということです。

この点を含め私は米ドルはアメリカのローカルカレンシーに成り下がったか、という疑念を指摘しました。つまり、アメリカが基軸通貨の発行国としての責任を全うしているというのが伝わってこないのであります。それはとりもなおさず、アメリカが自国中心主義となっており、その発想の先には中国が見えている気がするのです。アメリカが自国の利益を守るためにより保守的な政策(あるいは外交)を続けることで世界が混乱し、結果としてアメリカが生き残るという一種の近隣窮乏化政策とも思え、今や忘却の彼方におかれたあの悪政を行っていると言われても仕方がないかもしれません。

実は二か月ほど前に私は金関連の投資を再び始めたということをこのブログで書かせていただきました。あの頃、投資ニュースは金は更に売られるという弱気一色でした。実態はどうでしたでしょうか? あれから私の投資分は1割ぐらいは上昇し何度かの利食いを経て今日に至っています。私が金関連に少しだけポジションを置く気になったのはドル不信がこれから少しずつ本格化する兆候があるとみているのです。

さて、ウォールストリートジャーナルに興味深い記事が掲載されています。ゴールドマンサックスの分析として新興国株式とアメリカのS&Pの指数の過去の比較であります。これにより現在の調整がどの位置にあるのか推定するよい資料となっていますが、ざっくり言うと現在までの調整幅は過去の事例からするとちょうど半分となっています。もちろん、今回の調整が過去の前例に倣う理由は何処にもありませんのであくまでも参考までの話ですが、底はまだ見えないということなのでしょうか? 記事にはStill, Goldman predicts more pain ahead for both U.S. and emerging-market stocks.と記されている点に不吉な気がいたします。

ところで日本では円安万歳の雰囲気に対して最近はその弊害を指摘する声も出てきています。円安に伴う国内物価への影響、更には電機等の製造業はずいぶん前にその製造拠点を海外に移しているところが多く、円安はデメリットというところもあるのです。その上、日本の金曜日に発表された12月の消費者物価指数(CPI)は1.3%となり、日銀の追加の金融緩和の意義に疑問符がついてしまいました。消費税増税前の駆け込みという見方もありますが、私はむしろスタグフレーションへの警戒が必要になってくる気がしています。

日本の企業の四半期決算は現時点で非常に良好な数字が並んでいますが、企業業績と人件費上昇とはリンクしない企業も多いわけで今後は更に注意深く様子を見るべきかと思います。昨年のアベノミクス景気で株で儲けた分がごっそり抜かれてしまった方も増えているはずです。ここは慎重に対応するほうがよさそうな気配がいたします。

今日はこのぐらいにしましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年2月1日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。