「ゆるキャラ」を単なるブームで終わらせるな --- 西村 健

2014年02月02日 14:27

ゆるキャラブームが続いている。「ふなっしー」「くまモン」などテレビで見かけない日はない。「ゆるいマスコット・キャラクター」の略称であるゆるキャラは、地方主催のイベントや名産品をPRするためにつくられたマスコット・キャラクターである。作者の愛が感じられ、可愛いものから個性的なものまで多様である。

個人的には癒されるし、私は大好きである。恥ずかしさを重々承知の上告白するが、個人的にグッズを集めている。


こうしたなか、ゆるキャラの延命とさらなる発展に向けて、目的をそろそろ振り返り、新たな段階にステップアップする時期に来ているのではないかと感じる。

各自治体・商工会などを中心に生み出された様々なゆるキャラをネタにしたコミュニケーションが盛んになって、日本国中が盛り上がっている。「ゆるキャラグランプリ」などのイベントも開催され、一部のゆるキャラはグッズ販売で多大な収益を上げ、経済効果もあげている。

その中でも成功例とされるくまモンは、ターゲットを関西圏に設定し、正体を隠して出現することで人々の関心をひきつけ、ゲーミフィケーション的な仕掛けを実施し、練りに練った言葉遣いなどのPR方法が成功のカギとされている。関係者の努力やアイデアは注目に値するし、マーケティングセンスは凄い。

ある研究では7割以上のゆるキャラが市や特産品のPR目的を果たしているとされている。また、自治体内外の様々なイベントにおいて、サポート役としてゆるキャラは大いに活用されている。以前ならイベントに関心を持たないで、ただただ横を通り過ぎていたであろう人々の足を止め、テーマについて知ってもらうなど、きっかけ作りの役割としては大いに貢献している。

全てが丸くて曲線を描いているため、人々に安らぎや心の和らぎ、安心感を与えており、ゆるキャラをネタにしたコミュニケーションは人々のコミュニケーションを豊かなものにしたといえる。ゆるキャラの支援活動への取り組みは、自治体やまちづくりに従事する関係者同士や自治体内の一体感アップにも貢献している。

こうした成功したゆるキャラの陰には、多くの見向きもされないゆるキャラの存在がある。つまり、資本主義社会の悲しい現実がそこにはある。この世界も競争社会なのだ。厳しい現実を含む全体を概観すると2つの問題点が見受けられる。

第一に、PR目的があいまいであるということだ。多いのが自治体名のPRという目的である。自治体名は、わざわざゆるキャラでPRするべきものなのかという疑問をいだく人も多いだろう。

仮に、ゆるキャラで名前を知った人がどれくらいいるのか。そうした人がどういった感情を抱いたのか、行動を起こしたのか(発言・発信・口コミ)。市のイメージ変化にどれくらい貢献したのか。ゆるキャラで知った名前はいつまで人間は覚えてられるのだろうか。

こういった疑問に対して科学的に答えた研究・報告や分析について私はついぞ知らない。目的にも様々な段階があるだろう。名前を認知してもらう段階なのか、イメージを抱いてもらう段階なのか、内容を理解してもらう段階なのか、コミュニケーションを活発化・増大させる段階なのか、ゆるキャラを推進役に特定の政策を誘導する段階なのか……。

目的があいまいなため、本当に目的を達成できているのか、つまり、効果が出たのか、判断ができない。コミュニケーションが活発になったのなら、ソーシャルメディアのクチコミ分析くらいはしてもらいたいものだ。

第二に、ゆるキャラに関連する業務のコストがどれくらいなのか、見えないことだ。そもそも、上位ランクインを目指す「選挙戦」でテーマ曲やダンスを制作、選挙対策本部の設置、市長自ら街頭演説や市内の企業回りをすることなど一連の活動にかかる事業費や職員の業務時間(職員の人件費)がどれだけかかっているのか、なかなかわからない。多くの場合、事業費にかかる費用は自治体独自の財源よりも国からの補助金を活用している。ただし、業務時間については、どれくらいの職員がどれくらい時間をかけたのか、「見える化」されていないのが、現状だ。

そもそも、こうしたことは行政がやるべき仕事なのかという疑問を感じる人もいるだろう。他方、自治体や特産品を身近に感じてもらいたいという思いから出発した、アピールのための仕掛けなので、積極的に関与すべきと思う人もいるだろう。

役割については自治体に住む多くの住民が議論した結果納得できればよいと個人的に思う。しかし、デビューしたから年月が経ったある段階で、役割や目標を達成できたか、達成・不達成の理由は何かを振り返り、その後の継続を意思決定し、推進するならより推進し、辞めるなら辞める、そして同時に、その反省を業務や職員の人材育成に活用していくべきであろう。

ある駅の再開発事業のゆるキャラが先日役割を終えたということで引退をした。インターネットで話題になったゆるキャラだが、個人的には疑問を感じていた。ゆるキャラが「再開発事業の認知度アップに貢献」と自治体は総括するが、事業の認知がそもそも必要なのだろうか、と。もっとゆるキャラによって認知度をあげるべき事業はあるのではないか、と。財政再建、公共施設の統廃合、自殺者の増加、若者の引きこもりの増加、生活習慣病にかかる住民の増加、中心市街地の衰退などなど自治体の問題がこれほど多い時代に、明るい話題も必要というのもわかるけれど、行政経営には優先順位があるはずだ。

というのも、筆者の知る自治体(中核市と呼ばれる人口30万以上の都市)ではなんと10以上のゆるキャラが存在している。職員も知られていないゆるキャラも多い。すでに、着ぐるみが倉庫でホコリをかぶってしまっているものもある。職員からも「リストラが必要では」との声も聞く。でも公式には引退したゆるキャラはまだ1つもない現実。

関わっている職員たちは面白いし、自治体が盛り上がって嬉しいだろう。しかし、それが本当に必要な仕事か。そのことを熟考した上でゆるキャラの可能性を最大限に模索してほしい。

たとえば、ゆるキャラを住民と一緒に作成するなどクリエイティブな活動を発展させるとか、住民が参加しにくい業務(審議会の公募、パブリックコメントなど)に参画した住民に対してはゆるキャラグッズをあげる、ゆるキャラにメッセージを持たせ媒介役として様々なコミュニケーションの潤滑油として活用してもらうなどである。

民間では東急グループが「のるれーじ」という面白い取り組みを行っている。ポイントをためることで、名誉駅長になれるというゲーミフィケーション的要素を入れた取り組みだ。

こうした取り組みを参考に、「住民協働」のための新たな仕掛けを開発してもらいたい。必要なら個人的にも協力したいと思っている。また、可能性がないゆるキャラには悲しいことだが、早めに引退を促して供養してやるべきだろう。ゆるキャラへの愛とリスペクトが今試されている。

西村 健
日本公共利益研究所 代表

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