今週のメルマガでラフに書いたが、ちゃんと説明したほうがいいので補足しておく。経済学で、国際金融のトリレンマとしてよく知られている話がある。これは
1.自由な資本移動
2.固定為替相場
3.金融政策の独立性
の3つのうち2つしか同時に満たせないという問題で、1930年代には1と2を維持したために3が失われ、アメリカの大恐慌が世界中に伝染した。1970年代にも外為市場が動揺したため、2をやめて変動為替相場制にして1と3を維持している。
ユーロ圏では、竹森俊平氏のいうように、1と2を維持しているために南部から北部への大規模な資本逃避が起き、ECB(実質的にはドイツ)が金融政策でその赤字を補填している。同じようなトリレンマが主権国家にもあり、次の3つのうち2つしか同時に満たせない。
1.自由な人口移動
2.共通の通貨
3.各地方の財政的独立性
日本では1と2を満たして3を犠牲にし、国が地方財政の赤字を補填しているが、この構造は長期的に維持できない。ポリタスにも書いたように、これから日本は急速に高齢化し、現役世代の国民負担率が50%を超えるからだ。若い世代が老人を支え、都市が地方を支える構造は、いずれ破綻する。
一つの解は、2をやめて各地方に別々の通貨を導入することだ。たとえば「北海道円」をつくって変動相場制にすれば、1ドル=200北海道円ぐらいになって、北海道の国際競争力は飛躍的に高まる。アジアに出て行った工場も北海道に移って雇用が増えるが、本州との間の取引には為替リスクが生じ、取引量が減るだろう。
もう一つの解は、1をやめて各府県の人口を固定することだ。これが江戸時代型の解決法で、300年間もったのだから、それなりに有力な方法である。
もう一つの解は、すべて守って各地方を都市国家にし、地方交付税も補助金も廃止することだ。これは今のユーロ圏に近いが、大都市に人口が集中して過疎地からは人がいなくなり、北海道や沖縄の財政は破綻するだろう。
こう考えてみるとだれもが喜ぶ解はなさそうだが、日本で2をやめることはまずありえないので、1と3がトレードオフになっている。つまり人口移動が自由になるほど地方の過疎化が進み、財政の独立性が失われる。逆に都市の独立性を強めて過疎化を放置すれば、財政赤字の拡大は防げる。おそらく長期的には、後者の道しかないだろう。