女性幹部は「法」で強制しなければ増えません --- 東猴 史紘

アゴラ

(1)指導的地位の3割が女性となる社会に

女性の社会進出を促す動きが活発している。安倍首相は施政演説で2020年にあらゆる分野で指導的地位の3割が女性となる社会を目指すことを明言し、国家公務員の採用は再来年度から全体で3割以上を女性とすることとした。

民間企業でも、キリンH.Dが平成33年までにグループの女性管理職を現在の約100人から3倍の300人に増やす方針を決め、日立グループは女性活用の度合いを数値化させる。


このように、女性の登用数を目標立て措置を講じることをポジティブ・アクションといい、そのアクションの中でも登用を法律で義務付ける場合はクォータ制という。

この議論自体は特に新しい話ではない。1999年に男女共同参画社会基本法ができて以来、第2次基本計画では「2020年までに30%の女性指導者」を目標付け、第3次基本計画ではその目標を達成させるために「政党に対してクォータ制の導入」を要請した。

議論はあったが、過去政府が政治に要求し続けてきたわけだが全く進まなかったのだ。この間、お隣の韓国では2000年には国会議員選挙に比例代表の候補者名簿で女性が30%登録しなければいけないクォータ制(2005年には50%とした)を導入し着実に女性議員の数を増やしている。

また世界を見渡しても国会議員や地方議員選挙でクォータ制を導入しているのは195か国中87カ国(男女共同参画白書平成23年度版)である。つまり、世界の国の約半数近くが女性の指導者を一定数確保する措置を講じているのである。

企業においても、ノルウェーなどは取締役の40%をどちらかの性にしなければいけないなどのクォータ制を導入するなど民間分野でも世界のポジティブ・アクションは進んでいる。

日本も女性幹部の登用を「法」で強制すべきだろうか。改めて考えたい。

(2)なぜ女性の活躍が今、求められているのか?

なぜ女性の社会進出が今、求められているのだろうか。それは日本の更なる経済成長のためである。具体的には女性に労働市場へ出てきてもらい働いてもらってGDPに貢献してもらうためだ。日本の女性就業率が男性並みに上昇した場合の潜在的GDPが15%伸びるというゴールドマン・サックスの予測もある。また、OECDも「日本の優先課題は、女性の就業率引上げを中心とした人的資源のフル活用であり、これにより、将来の経済成長を実現し得る。(アウトルック2013)」と言い切っている。

では、なぜ女性管理職の数が重要なのか。日本の低い女性管理職(日本は11.1%。例えば米国は43.0%、同じアジアのシンガポールは34.3%)の比率を国際水準に合わせるためだろうか。それも重要かもしれないがそれ以上に重要なのは、女性管理職が増えれば、女性が働きやすい環境ができ、女性の昇進チャンスも生まれて就業率や賃金、モチベーションがアップするだけでなく新たな女性の市場が開拓できる可能性が高まる。女性視点での「環境」「市場」「文化」が創出されるのだ。

最近ではウーマノミクスという言葉も生まれた。つまり、意思決定や責任者として携わる女性管理職の数が伸びることはそれがそのまま日本の「伸びしろ」になるのである。

いくらM字カーブ(結婚・出産期にあたる30歳代の女性の就業率が低くなる形)を解消を叫んだところで、長時間労働や育児制度などが整えるインセンティブの低い男性管理職社会のままでは、女性は働けない。こういった観点からも女性の管理職を増やすことがまずは必要なのである。女性のことは女性が一番分かっているからである。

(3)女性管理職が増えれば企業業績は増えるか?

とはいえ、女性管理職の増加は業績にプラスの影響を与えるのだろうか。民間企業では特に大切な論点である。

この点、米国の調査ではフォーチュン誌500社において3人以上の女性役員が登用されている企業は株主資本利益率(ROE)や売上高利益率(ROS)、投下資本利益率(ROIC)が平均より優れた財政業績が見られたという。また、経済産業省と東京証券取引所が命名した「なでしこ銘柄」(女性活用を進める上場企業)はリーマン・ショック後でも東京株価指数(TOPIX)より高く推移していたという調査もある。

また、経済産業省のシンクタンクRIETIの児玉 直美氏のレポート「日本の労働市場における男女格差と企業業績」によると2000年代の日本企業のデータでは「女性役員が増えること、女性役員がいること、女性課長がいることは、製造業においては企業の収益性を高める」ことが分かったという。さらに、黒田麻美氏の論文「女性雇用は何故企業業績を高めるのか」においても日本の上場企業700社(2009年)で「女性比率と利益率に正の関係がある」ことが論じられている。

もちろん実際には業績が良い企業にたまたま女性が多かっただけかもしれない。相関関係はあるという見かけ上のデータに過ぎない可能性もあるし、企業業績と女性管理職の因果関係も証明はできていない。しかし上述したウーマノミクスなど、女性視点での新たな市場・環境・文化の創出への「期待」は大きい。

(4)女性の社会進出は出生率を低めるか

女性の社会進出は出生率を下げるのではという疑問があるが、内閣府は「少子化と男女共同参画に関する社会環境の国際比較報告書」(平成17年)で、1970年や80年代のOECD諸国(先進国)では確かに女性の労働力参加率が上がると出生率が低い傾向にあったが、2000年時点にはむしろ女性の労働力参加率が高いほど出生率が高い傾向にあることを示した。

安倍首相は成長戦略のスピーチの中で「現在、最も生かしきれてない人材とは何か。それは女性だ。」と述べた。生かしきれない理由は、M字カーブの原因ともなっている長時間労働や正社員・非正社員の格差、子育てとの両立が困難な男性価値観中心の環境にある。これらの女性特有の壁を突破していくのはやはり意思決定と環境を変えていく権限を持つ女性管理者が増えていかなければいけない。そう簡単にいくかという疑問もあろうが、横浜の林文子市長は就任わずか3年で待機児童の大幅解消を達成した。これが男性の市長だったら重点課題にはならなかったかもしれない。やはり指導者が変われば環境は変わるのである。

世界の例を見ても、クォータ制の導入は確実に女性指導者の数は増やせる。憲法問題はあるものの、幾度の違憲判決を出されても世界は何とか合憲に達するまでの工夫をして克服してきた。それだけ女性の指導者や管理職を増やすことが国や企業の「伸びしろ」になることが分かっているからだろう。

よって日本もその「伸びしろ」のために女性幹部の登用を「法」で強制すべきである。世界も強制したから数を増やすことができた。女性が社会進出することは男性にもプラスとなる。男性は女性によって磨かれる生き物だからだ。「女性が輝けば男性も輝く」。

東猴 史紘
元国会議員秘書
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