中国は2大外交原則を放棄したか --- 長谷川 良

アゴラ

ウクライナ南部クリミアの治安問題でロシアのラブロフ外相は3月3日、中国の王毅外相と電話会談をした。ロシア側の報道によると、両外相は意見が一致したという。

この報道を読んだとき、「本当だろうか」と疑ってしまった。なぜならば、ロシアがウクライナの主権を蹂躙し、ロシア軍をクリミアに派遣したことは、内政干渉を拒否してきた中国外交の外交政策に反する。その上、クリミアが分断されたりすれば、「主権国家の国境不変更」という大原則にも反するからだ。簡単にいえば、中国がロシアのウクライナ政策を支持することは、中国のこれまでの2大外交原則を放棄することになるからだ。


例を挙げる。中国国営新華社通信によると、「雲南省昆明市の昆明駅で1日夜、無差別殺傷事件が発生。犯行グループは男6人女2人の8人でウイグル系反政府グループの犯行とみられる」という。

北京政府が新疆ウイグル自治区の反政府運動、分離運動を非常に警戒していることは周知の事実だ。昨年10月28日、北京の天安門車両突入自爆テロ事件が発生したが、その背後にウイグル系グループが関与していたと報じられたばかりだ。

チベット人問題も同様だ。ダライ・ラマ14世が2月21日、オバマ米大統領とワシントンで会談したが、中国政府は早速、激しく抗議している。欧米諸国が北京政府のチベット民族、ウイグル人弾圧を批判すれば、中国側は「内政不干渉」という外交原則を掲げて反論してきた経緯があるのだ。

その中国がロシアのクリミア政策を支持すれば、その2つの外交路線と噛み合わなくなってしまうことは明らかだ。だから、ロシア側の「中露外相が一致した」という報道は少々、疑わしくなるわけだ。

実際、中国外務省の秦剛報道官は2日、「中国は内政不干渉の原則を堅持しており、ウクライナの独立、主権と領土の保全を尊重する」と述べている。だから、中露両国外相の「意見の一致」というロシア側の報道はロシア側の一方的なプロパガンダと受け取るべきかもしれない。

ここまで考えてきた時、読売新聞電子版は北京発で興味深い記事を発信していた。中国の第12期全国人民代表大会第2回会議開幕前に、全人代の傅瑩(フーイン)報道官が4日、北京で記者会見し、「ある国家が挑発すれば効果的に対応しなければならない。中国自身の領土主権を守り、地域の秩序と安定を守るために非常に必要なことだ」と述べ、沖縄県・尖閣諸島問題で対立する日本をけん制する発言をした、というのだ。

中国共産党政権はここにきて、ロシアのプーチン大統領と同様、必要なら軍事力の行使を辞さない攻撃的外交を見せてきている。中国の外交政策、「内政不干渉」と「国境不変更」という2大外交原則は、あくまでも建前であり、状況に応じていつでも原則を放棄する外交路線に変わる可能性があるわけだ。中国の外交路線の“プーチン化”と呼ぶべきかもしれない。その観点からいうならば、先述した、「中露両外相の一致」というロシア情報は、ひょっとしたら文字通り正しいのかもしれない。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年3月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。