偏る賃上げ動向:企業はコスト高を避けている

2014年03月06日 23:51

いままでのところは,期待するほどには賃金が上がってきていません。たとえば,「1月実質賃金は前年比 ‐1.8%、7カ月連続で低下=毎月勤労統計」(ロイター 3月4日)という状況です。

一方で,本日(3月6日)の日本経済新聞の一面には「トヨタ、ベア2000円台提示 日産、満額回答3500円 電機6社は1000~1500円 」とあり,今後の賃上げに期待している人も多いかもしれません。

けれども,私はまだ構造的な需要不足やコスト高の問題が残っていて,このままでは賃金は上がりにくいと考えています。(コストには,エネルギーの他に正社員の社会保障負担なども含みます)。


賃上げのニュースも出ていますが,産業別で最近の賃金の変化をみると,このままでは一部の一時的な動きとどまるように思えます。表は,厚生労働省「毎月勤労統計調査」での,いくつかの産業における一人あたりの給与の変化(前年比)です。

下のようにまとめてみました。上がるところ(製造業など)もあれば,下がるところ(サービス業)もあるというのが実情です。全体(調査産業計)ではほとんど変化がみられません。(なお,名目で変化がみられない一方で,インフレ率がややプラスのため実質賃金は低下しています。)

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建設業:12月まで前年比プラスだが,主にボーナス増加による一時的なもの。公共投資の増加も影響している。消費増税前の駆込み需要が終わり,1月に入ってマイナスに転じたか。

製造業:夏以降にプラスになっており,こちらは基本給与での上昇。円高修正の影響や駆込み需要が要因と考えられるが,この場合は一時的な上昇。

サービス業:とくに医療,福祉では,(11月を除き)マイナスが続いている。円安や駆込みの影響を受けないので,基本的な労働需給を反映していると思われる。
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201401_wage

もう一つ注目しているのが失業率の低下です。完全失業率(季節調整値)は昨年11月に4.0%から3.9%へ,さらに12月に3.7%へと低下しました。

ところが,就業者数(雇用者)について内訳を見ると,今年と昨年の1月を比較(対前年同月増減)したとき,非正規雇用が133万人増加したのに対して,正規は94万人「減少しています。また,女性(含む自営業主)は32万人増加しましたが,男性は2万人増にとどまっています。このように主に女性・非正規雇用・サービス業の増加により失業率の低下が生じています。

何か問題がありそうな動きです。

さらに,この数ヶ月において,とても特徴的な変化がみられます。それは男性における年齢による違いです。比較的高い年齢層での失業者数減少が失業率の低下につながっているのです。

図はここ3ヶ月において,男性・年齢別の失業者数について,どれくらい失業者数が減少したかを率で表したものです(失業者数対前年同月増減/失業者数,注:変化率ではありません)。年齢別の就業のしやすさ(マイナスほど失業者数の減少が相対的に大きい)の指標になっています。男性では55歳以上においては失業の改善が顕著にみられるものの,とくに40代前後ではごく小さな値にとどまっています。

201401_emp

(出所)総務省「労働力調査(基本集計)」より作成。

考えてみましたが,雇用でもこのような偏った改善がみられるのは,やはり,企業は一時的な景気回復と捉えていて,あとで人件費が固定的にならないように予防しているのだと思います。そして,40代前後の壮年層の男性・正規職員の人件費が,社会保障負担も含めて固定的なことがその背景にあるからでしょう。(ただし,供給面として,雇用がサービス業で伸びていることも要因として考えられます。また,一時的な動きにすぎない可能性もあります。)

※ ちなみに,出版されたばかりの脇田成 (2014)『賃上げはなぜ必要か: 日本経済の誤謬』(筑摩選書) では, ミドルの不満として,壮年層の労働問題の様々な面にすでに注目しており驚きです。 内部留保や賃上げの方法については議論があると思いますが,全体としてはとても勉強になります。

ベースアップのニュースがあるものの,賃金上昇も雇用改善も一時的で,偏ったものになっています。これでは全体における賃金上昇による好循環の実現にはつながりません。着実な賃金上昇のためには,コスト高を解消して,日本全体において企業が利益を出せるようになることが必要だと思います。ただ,政府がマクロ政策としてできることは限られています。できるだけ企業活動を自由にして,そこから何かが生まれるのを期待するしかありません。

蛇足ですが,たとえば,私は企業の社会保障負担(事業主負担)は(労働者負担にして)やめるか,縮小できるのではないかと考えています。当初は実質的には変化がないかもしれませんが,企業の自由度は徐々に高まるのではないでしょうか。

岡山大学経済学部・准教授
釣雅雄(つりまさお)
@tsuri_masao

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