スマホゲーム市場は世界的「バブル」なのか?:アゴラ経済塾「次なるガンホーを探せ」のテーマ

新 清士

 今年、私が、取材する上で、注目をしているテーマがある。
「スマートフォンを中心としたモバイルゲーム市場は“バブル”ではないのか?」
 やはりとそうした論調は欧米ではっきりと出ている。

 3月17日から21日まで、アメリカのサンフランシスコで、Game Developers Conference 2014 が開催された。2万4000人以上が参加する全世界のゲーム開発者向けの情報が集まる場としては、世界最大のものだ。
 ゲームの最新の技術トレンド、ビジネスモデルの変動、ゲームの新しい表現方法の模索など、様々な分野の議論が行われる。5日間で400を越える講演に、ゲーム技術を中心とした展示会、そして、ゲームの商談が周辺のホテルも含め行われる。

 GDCの場では、「バブル」であるという、そういう論調は強い。
 3月27日(木)のアゴラ経済塾「次なるガンホーを探せ」のテーマは、この状況の解説に力点を置く予定だ。

■モバイルゲーム市場は16年には239億ドルに達する


 モバイルゲームの市場が、今後も急成長が続くことを疑う議論はない。iPhoneやiPad、アンドロイド端末の全世界への普及は加速化している。日常的にゲームを遊ぶ人の数は、全世界的に着実に増えていくと考えられている。調査会社AppLiftが、昨年10月に発表したレポートでは、2013年と比較して、毎年27.3%の成長が続き、2016年には2倍の239億ドルにまで達すると予測している。

 すでに、全世界の12億人のゲーマーのうち、78%の3億6800万人がモバイルゲームを遊んでいるという。その中でも、アジアが強いアメリカを抜いて世界最大の市場となった日本、世界最大規模の市場に成長しつつある中国といった存在があるため、今や世界全体の48%の売上げを出すまでの存在になっている。
 そして、今後も、全世界的な成長のペースは鈍ることなく、欧米・アジアとも、成長は続くとみている。

 ソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーション4」が大ヒットしているものの、今後、モバイルゲームを脅かすほどの市場規模になるとは見られていない。
 実際に、新規に家庭用ゲーム機に進出しようとする企業に対して、大規模に投資をしようとするベンチャーキャピタルに代表される投資マネーは動いていない。多くのマネーは、モバイルゲームに注目を続けている。
 その中でも、今後の動きを左右すると見られているのが、アジアからの欧米企業への積極投資への動きだ。

■ソフトバンクが創業4年目の企業に仕掛けた大型買収
 2013年10月に、ソフトバンクとガンホー・オンライン。エンターテイメントが、フィンランドのゲーム会社Supercellを15億ドルで株式の51%を取得し、買収した。これは、世界中を驚かせると同時に、モバイルゲーム市場が「バブル」を引き起こしているとする論調を生み出すことになった。
 このゲーム会社は2010年創業で、買収時にはストラテジーゲーム「クラッシュ オブ クラン」ともう1タイトルの2タイトルしかリリースしていなかった。しかし、「クラッシュ オブ クラン」は世界的に空前の大ヒットを引き起こしている。
 ほぼ全世界のiOS用のAppStore、アンドロイド端末用のGooglePlayの売上げランキングで、1年以上常に首位に近い位置に立ち続けている。
 昨年の一日当たりの売上げは240万ドルで、年間売上げは8億7600万に達すると推計されている。このゲームを開発したスタッフは当初は5名程度だった。現在でも数十人程度の企業で、一人当たりの売上げして考えると、そのすさまじさが感じられる。

 この買収劇には、米ベンチャーキャピタルのAccel Partnersといった存在が背後で動いていることが大きいと見られている。同社は、Facebookなどへの投資を行うなど、シリコンバレーを拠点に、成長しそうなIT企業に、いち早く資本を入れ、育てることに成功している。その同社が、今、モバイル市場に最も注目しているのだ。
 昨年2月には、Supercellに対して、1億3000万ドルの追加融資をしている。その際に、企業価値を7億7000万ドルと算出していたと見られている。
 その時点でも、ベンチャー企業の評価としては、かなりの高額だが、ソフトバンクは、その2倍もの企業価値として評価した上での買収を行ったと見られている。
 ガンホーの「パズル&ドラゴンズ」は、大半の売上げは、一人当たりの顧客単価の高い日本の市場から売り上げているのだが、全世界でヒットしている「クラッシュオブクラン」とほぼ同額の売上げを出している。日本のトップゲームと、世界のトップゲームをおさえたことで、ソフトバンクグループは一躍、スマホソーシャル市場で世界トップの企業に躍り出た。

 ただ、買収金額が適切かどうかは、現時点では見極めが難しい。ガンホーも、スーパーセルも、収益を支えているのは、1本のヒットタイトルに依存しているためだ。そこもバブルと見られいている所以だ。
 それぞれのゲームのブームがいつまで続くのかははっきりとはわからない。コンテンツには自ずと寿命があり、いつかは飽きられる時期が来るからだ。しかし、それがいつで、どのくらいのペースで落ちていくのかは、はっきりとは見えない。また、「宝くじに当たったような物」と揶揄する表現もあり、次のタイトルで、同じような大ヒットを出せる保証はない。

■1本のゲームのヒットから上場申請に入った英King
 同じように、1本のゲームの世界的なヒットによって、上場申請(IPO)にまで入った企業がある。英Kingだ。パズルゲーム「キャンディクラッシュサーガ」が世界的に大ヒットしている。iOS、アンドロイドとも合計すると「クラッシュオブクラン」に匹敵する並ぶ売上げを出している。落ち物パズルと呼ばれるシンプルなゲームだが、ゲームは奥深い。
 11年の売上は6300万ドルで、1300万ドルの営業損失だった。ところが、このゲームのヒットにより、13年の売上は18億8400億ドルで営業利益は5億6700万ドルと爆発的な成長。このゲームの開発も5人程度であったため、一人当たりの売上げは途方もない金額になっている。
 
 IPOによって5億ドルを調達する予定だ。投資家の間での事前評価は高い。しかし、同社の売上げの78%が「キャンディクラッシュサーガ」に依存している。
 IPO申請の目論見書には、今後、「キャンディクラッシュサーガ」といった主力タイトルの売上げが低下するリスクもあることが、述べられている。事実、売上げは下がり始めており、持続的な成長が出来るのかに懐疑的な目もある。

■スマホゲームに変化しながら続く「バブル」
 11年に、ソーシャルネットワークのFacebook向けのゲームとして3億人近い、世界最大のゲーム会社へと成長したZyngaが上場した。10ドルの根付けが行われ、10億ドルの調達に成功した。しかし、ユーザー一人当たりの売上げが極端に低いために、赤字状態である実態が明らかになり、株価は急落。その後も赤字は続き、一時は2ドル台と、厳しい状態に置かれている。
 業績の回復には至っていない。現在でもリストラが続いている。同社はモバイルゲームへの切り替えに失敗した代表格とされている。Zynga自体が、Facebookで起きたバブルの象徴でもあった。Facebookに積極的に展開しているゲーム会社への投資は、もう起きなくなっているが、同様の現象が、モバイルゲームへとシフトしているというのが今の構図だ。

 モバイルゲームへのバブルの加熱は進んでいる。高い収益を持つアジア企業が欧米企業をあさる「バーゲン」という言葉まで出ている。
 日本企業以外にも、中国市場で独占状態を築いている中国のオンラインゲーム会社のTencentなどの名前があがっている。そこに、ベンチャーキャピタルなどが登場することで、高い企業評価でM&Aを成立させようとマネーが動いている。

 今、モバイルゲームを中心に、世界のマネーが流れ込むゲーム産業はどこへ行こうとしているのか? ある日、有力なゲームが登場し、それらがなぜ人気を獲得し、世界的なヒットに結びつくのか……また、「バブル」のリスクはどこにあると見られているのか……。

 ゲーム産業のみならず、世界のインターネット産業を見つめる上で、どこに視点を置くべきなのか。
 3月27日(木)のアゴラ経済塾「次なるガンホーを探せ」で、GDCの最新情報をご紹介しながら、解説させていただきます。

新 清士
ジャーナリスト
立命館大学映像学部非常勤講師
@kiyoshi_shin